イタリア・University of Campania "Luigi Vanvitelli"のRoberto Minutolo氏らは、低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬と赤血球造血刺激因子製剤(ESA)を比較した第Ⅲ相ランダム化比較試験(RCT)の26報のメタ解析の結果、「HIF-PH阻害薬は、慢性腎臓病(CKD)に伴う腎性貧血患者のヘモグロビン(Hb)値を有意に改善し、新たな安全性シグナルも同定されなかった」とClin kidney J(2023; 17: sfad143)に報告した。

有効性と安全性に関する長期の実臨床データなし

 HIF-PH阻害薬は、内因性のエリスロポエチン(EPO)産生を改善する新しい作用機序の経口腎性貧血治療薬であり、日本では既に5剤が承認されている(関連記事:「HIF-PH阻害薬はESAの有望な代替薬」)。HIF-PH阻害薬の有効性と安全性に関し、承認に先立つ第Ⅲ相試験では標準治療であるESAに対する非劣性が一貫して報告されているが、臨床導入から数年しかたっていないため、有効性や安全性に関する長期のリアルワールドデータはない。

 そこでMinutolo氏らは、科学データベース(PubMed、SCOPUS、ISI)から、①HIF-PH阻害薬の有効性と安全性をESAとの比較で検討した第Ⅲ相RCT、②CKDに続発する18歳以上の腎性貧血患者、③試験期間が24週間以上―の基準を満たすRCT 26報を抽出し、メタ解析を実施した。

Hb値は有意に改善、がん/MACEは差なし

 参加者は計2万4,387例で、うち59%が透析導入患者だった。ランダム効果メタ解析の結果、HIF-PH阻害薬群とESA群におけるHb値のベースラインからの変化量の平均差は0.10g/dL(95%CI 0.02~0.17g/dL)とHIF-PH阻害薬群で有意に大きかったが、試験間の不均一性も大きかった(I2 = 86.7%、P=0.000)。

 また、メタ回帰分析の結果、HIF-PH阻害薬群におけるHb値の変化は、参加者の年齢が若い試験ほど大きいこと(P=0.040)、対照のESAが長時間作用型よりも短時間作用型の場合に大きい(平均差-0.01g/dL、95%CI -0.09~0.07 vs. 同0.21、0.12~0.29、P<0.001)ことが判明した。HIF-PH阻害薬の種類は不均一性に影響を及ぼさなかった。

 鉄代謝パラメータに関しては、HIF-PH阻害薬群ではESA群に比べ、ヘプシジンとフェリチンが有意に低下し、血清鉄と総鉄結合能(TIBC)は有意に上昇したが、トランスフェリン飽和度(TSAT)には両群で差がなかった。鉄静注用量はHIF-PH阻害薬群で有意に少なかった(-3.1mg/週、95%CI -0.56~-0.6mg/週、I2 = 74.1%、P=0.000)。

 がん(率比0.93、95%CI 0.76~1.13)、主要心血管イベント(MACE、同1.00、0.94~1.07)、MACE + 心不全入院または不安低狭心症または血栓塞栓症(同1.01、0.95~1.06)、血栓症(1.08、0.84~1.38)、動静脈瘻(AVF)血栓症(1.02、0.93~1.13)、死亡(1.02、0.95~1.13)の発生率に両群で差はなかった

安全性については今後も注意が必要

 以上の結果を踏まえ、Minutolo氏らは「今回のメタ解析から、HIF-PH阻害薬はESAに比べて、Hb値改善効果が高く、鉄静注の必要性の目安となる鉄代謝パラメータを有意に改善することが明らかになった」と結論。

 安全性に関しては「新たなシグナルは発見されなかったが、がんに関してはHIF-1αとHIF-2αの発現増強が腫瘍形成に関与するとの説がある。今回の解析で懸念材料は見つからなかったものの、追跡期間はいまだ短いため慎重な解釈が求められる」と付言している。

木本 治