特発性肺線維症(IPF)は肺の線維化が起こる原因不明の慢性疾患で、呼吸困難や咳嗽などの症状を伴う。オピオイドは慢性咳嗽の治療に長年にわたって用いられており、モルヒネは咳嗽反射を抑制すると考えられているが、IPFの咳嗽に対する効果は検討されていない。英国・National Heart and Lung InstituteのZhe Wu氏らは、IPF患者における鎮咳療法としての低用量モルヒネ徐放薬の有効性と安全性を評価する第Ⅱ相多施設共同プラセボ対照クロスオーバー試験PACIFY COUGHを実施。プラセボと比べてモルヒネは日中の咳嗽頻度を39.4%有意に減少させたと Lancet Respir Med2024年1月15日オンライン版)に発表した。

14日後には咳嗽頻度が21.6回から12.8回に有意に減少

 Wu氏らは、2020年12月~23年3月に登録したIPF患者43例(平均年齢71歳、女性30%、平均努力肺活量(FVC)2.7L、平均予測FVC 82%、平均予測一酸化炭素拡散能48%)を①期間1にモルヒネを14日間投与し、7日間のウォッシュアウト期間を挟んで期間2にプラセボを14日間投与する21例と、②逆の順番で投与する22例―にランダムに割り付けた。14日目(期間1終了時)と36日目(期間2終了時)行ったデジタル咳モニタリングで日中または覚醒時における1時間当たりの咳嗽頻度の変化率を評価し、主要評価項目とした。モルヒネ投与は43例が完遂し(モルヒネ群)、プラセボ投与は41例が完遂した(プラセボ群)。

 検討の結果、日中または覚醒時における咳嗽頻度の変化率は、プラセボ群と比べてモルヒネ群で39.4% (95%CI 19.4~54.4%、P=0.0005)有意に減少した。モルヒネ群における日中の平均咳嗽頻度はベースラインの21.6回/時から14日目には12.8回/時へと有意に減少した(-40.8%、95%CI -54.2~-23.6%、P<0.0001)。一方、プラセボ群では有意な変化は見られなかった。per-protocol解析による日中の咳嗽頻度は、プラセボ群と比べてモルヒネ群で40.3%(95%CI 18.9~55.9%、P=0.0009)有意に減少していた。

咳嗽による痛みやQOLも改善

 モルヒネ群では咳嗽関連の患者報告アウトカムも改善しており、咳嗽の痛みスコアであるVisual Analog Scale (VAS)は16.1mm有意に減少し(95%CI 9.9~22.3mm、P<0.0001)、慢性咳嗽のQOL尺度Leicester Cough Questionnaire(LCQ)はベースラインから1.8ポイント有意に低下した(95%CI 0.9~2.8ポイント、P=0.0002)。IPFにおける健康関連のQOLを評価するL-IPF impactスコア (-5.2ポイント、95%CI -9.9~-0.4ポイント、P=0.033) やL-IPF overall symptoms (-5.2ポイント、同-8.9~-1.4ポイント、P=0.0078) も有意に低下し 、咳嗽を客観的に評価する咳嗽ドメインも有意に改善した(-10.8ポイント、同-16.9~-4.8ポイント、P=0.0004)。L-IPF Symptoms咳嗽ドメインには時期効果が観察され、期間2の患者でスコアが高く、咳嗽の悪化が見られた (7.5ポイント、95% CI 0.35~14.57ポイント、P=0.040)。

 治療後の変化に対する印象を「改善」「変化なし」「悪化」に分けて尋ねたところ、モルヒネによる咳嗽改善が半数以上(43例中24例、56%)で、QOLの改善が3分の1(43例中14例)で報告された。レスポンダー分析によると、モルヒネにより覚醒時の咳嗽頻度が20%以上減少したのは58%(43例中25例)、50%以上減少したのは42%(43例中18例)に上った。

 有害事象はモルヒネ群の43例中17例(40%)、プラセボ群の42例中6例(14%)で認められ、モルヒネ群で多く見られたのは便秘21%と悪心14%だった。

 Wu氏らは、研究の限界として「今回はオピオイドの離脱指標を設定していないため、試験および追跡期間中の離脱症状は不明だ。またモルヒネは固定用量としたが、治療効果がない場合は漸増が有益な可能性もある」と指摘。その上で「IPF患者の咳嗽に対する低用量モルヒネの有効性と安全性が示された。モルヒネの鎮咳作用の持続性や長期安全性はランダム化比較試験で検証すべきだ」と述べている。

(山田允康)