消化器がんは、世界のがん患者の4分の1を、がん関連死亡原因の3分の1を占めている。中国・Chinese Academy of Medical Sciences/Peking Union Medical CollegeのShaoming Wang氏らは、2000年における世界185カ国・地域の消化器がんの生涯発症リスクと死亡リスクを推定し、Lancet Gastroenterol Hepatol2024; 9: 229-237)に報告。「消化器がんの世界的な推定生涯発症リスクは8.20%、死亡リスクは6.17%で、12人に1人が発症し、16人に1人が死亡する計算になる」と述べている。

診断・治療の進歩、国際化や人口動態の変化が影響

 消化器がんは世界中で患者数や死亡率が高いにもかかわらず、生涯リスクの観点から累積的な発症および死亡への影響を評価した研究はほとんどない。過去30年間、がん診断と治療の進歩、医療インフラの改善とともに急速な国際化、人口動態、主要な危険因子の保有率と分布の変化などが組み合わさった結果、さまざまな国・地域で消化器がんの発症率と死亡率に変動が見られている。

 消化器がんの累積発症負担を深く理解するためWang氏らは、世界がん統計(GLOBOCAN)2020のデータを用いて185カ国・地域における世界レベル、地域レベル、国レベルの6種類の消化器がん(食道がん胃がん、肝臓がん、結腸・直腸がん、膵臓がん、胆囊がん)の発症と死亡について、生涯および年齢の条件付き確率を推定した。

 人口と全死亡率のデータは国際連合世界人口推計2019年版から取得した。また、国連開発計画(UNDP)の人間開発指数(HDI)を用い、国と地域を四分位に分けて評価した。

HDI高位国で発症、死亡ともに高リスク

 検討の結果、2020年の世界における消化器がんの生涯発症リスクは8.20%(95%CI 8.18~8.21%)、生涯死亡リスクは6.17%(同6.16~6.18%)と推定された。部位別に見ると直腸・結腸がんのリスクが最も高く、発症の38.5%、死亡の28.2%を占めていた。次いで胃がん、肝臓がん、膵臓がん、食道がん、胆囊がんの順だった。

 男女別に見ると、消化器がんの生涯発症リスクは男性で9.53%(95%CI 9.51~9.55%)、女性で6.84%(同6.82~6.85%)、生涯死亡リスクはそれぞれ7.23%(同7.22~7.25%)、5.09%(同5.08~5.10%)と、いずれも男性で高かった。

 HDIの四分位で見ると、HDI最高位国における消化器がんの生涯発症リスクは11.39% (95%CI 11.37~11.41%)、生涯死亡リスクは7.29% (95%CI 7.27~7.30%)、HDI最低位国ではそれぞれ2.61% (2.58~2.65%)、2.31% (2.28~2.35%)と最高位国で高かった。ただし、胃がん、肝臓がん、食道がんの生涯死亡リスクと、消化器がん全体の生涯死亡リスクはHDI最高位国より高位国で高かった。

消化器がん発症リスク、最も高いのは日本

 地域別では消化器がんの発症と死亡の生涯リスクがは東アジアが最も高く、それぞれ15.08% (95%CI 15.05~15.10%)、11.75%(同11.72~11.77%)だった。最も低かったのは西アフリカで、1.88% (同1.83~1.93%)、1.71%(同1.66~1.76%)だった。

 国別に見ると、日本は消化器がんの生涯発症リスクが23.48%(95%CI23.41~23.56%)と最も高く、生涯死亡リスクはモンゴルが16.62%(同15.37~17.87%)と最も高かった。エスワティニ王国は、消化器がん発症と死亡の生涯リスクが最も低く、それぞれ1.24%(0.69~1.79%)、1.14%(0.59~1.68%)だった。

 消化器がんの部位別に見た生涯発症リスクが最も高い地域は、胃がん、肝臓がん、食道がん、胆囊がんは東アジア、結腸・直腸がんはオーストラリア、ニュージーランド、南欧、膵臓がんは西欧だった。逆に、生涯発症リスクが最も低い地域は、食道がんと結腸・直腸がんが西アフリカ、胃がんが南アフリカ、肝臓がんが中央アジア、膵臓がんと胆囊がんが中部アフリカだった。

国や地域、各要因に応じた標的を絞った対策を

 以上の結果から、Wang氏らは「2020年の世界における消化器がんの生涯リスクを推定したところ、12人に 1人が消化器がんを発症し、16人に1人が消化器がんにより死亡することが示された」と結論。

 研究の限界として、①GLOBOCANの推定値は国によってデータの量と質にばらつきがある、②国際がん研究機関(IARC)による世界規模の推定が利用可能な最新年である2020年における消化器がん生涯リスクの横断的推定に焦点を当てているため、生涯リスクの傾向を評価することはできなかった、③新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行拡大前の情報であるため、パンデミックの影響が反映されていないーことなどを挙げた。

 また「国や地域による生涯リスクの不均一性が明らかになった。根底にある原因と因果経路に応じて、さまざまなタイプの消化器がんに対し状況に応じて標的を絞ったがん予防計画の確立が急務であることを示している」と結んでいる。

(平吉里奈)