がんの分子標的薬は従来の殺細胞性抗がん薬と比べ脱毛、骨髄抑制、吐き気などの副作用が軽減される一方、痤瘡様皮疹、爪囲炎、手足症候群などの皮膚障害が認められることがある。しかしその発症メカニズムは不明だ。順天堂大学大学院環境医学研究所・順天堂かゆみ研究センター准教授の鎌田弥生氏らは、分子標的薬の一種でマルチキナーゼ阻害薬のソラフェニブによる表皮角化細胞の細胞障害を抑制する薬剤について既存医薬品1,200種超のスクリーニングを行った。その結果、複数の薬剤を同定するとともに、皮膚障害の発症メカニズムの一端を解明したとJID Innov2024年2月27日オンライン版)に報告した。

ハンセン病治療薬、免疫抑制薬、抗真菌薬、駆虫薬を同定

 鎌田氏らは既存薬を転用するドラッグリポジショニングの手法により、1,273種の既存医薬品で構成されるライブラリーからソラフェニブによる表皮細胞毒性を軽減する薬剤をスクリーニングした。培養した正常ヒト表皮角化細胞に7μmのソラフェニブと1µmの各薬剤を添加、一晩培養後に細胞生存率を解析したところ、ソラフェニブによる細胞毒性を有意に抑制する15種の薬剤を同定した。

 続いて二次スクリーニングとして三次元培養ヒト表皮モデルの培地にソラフェニブと各薬剤を添加し、96時間培養後に細胞生存率を解析した。その結果、ハンセン病治療薬のクロファジミン、免疫抑制薬のシクロスポリンA、抗真菌薬のイトラコナゾール、駆虫薬のパモ酸ピルビニウムの4種が溶媒対照群と比べて有意に細胞毒性を抑制し、ソラフェニブ投与による皮膚障害に対する候補薬として抽出された。

ERK1/2のリン酸化阻害を解除

 増殖細胞マーカーである増殖細胞核抗原(PCNA)の発現を免疫組織化学染色で解析したところ、溶媒対照群と比べてソラフェニブ群ではPCNA陽性細胞数が減少。一方、候補薬のうちクロファジミン、シクロスポリンA、イトラコナゾールを添加した群では有意に増加した。また、アポトーシスをアネキシンV染色で検出すると、ソラフェニブ群では溶媒対照群と比べてアポトーシス細胞が増加したが、上記3種の候補薬を添加した群では増加が抑制された。

 さらに、ソラフェニブの阻害標的となるRafキナーゼの下流に位置するシグナル分子ERK1/2のリン酸化状態を解析した結果、溶媒対照群と比べてソラフェニブ群ではERK1/2のリン酸化が阻害された一方、クロファジミン、イトラコナゾール、パモ酸ピルビニウムを同時に添加した群ではリン酸化阻害が抑制された。

 以上の結果から、候補薬はソラフェニブによるERK1/2のリン酸化阻害作用を解除し、アポトーシスを抑制、細胞増殖の正常化を介し表皮角化細胞に対する細胞保護作用を示すことが示唆された()。

図.ソラフェニブ投与による皮膚障害の発症メカニズムと治療薬の作用

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(順天堂大学プレスリリースより)

抗真菌薬クリームの治療効果を検討中

 鎌田氏らは「今回同定した候補薬は既に国内で承認されており、早期に新規治療法として応用できる可能性がある。特にイトラコナゾールと同系統のアゾール系抗真菌薬は外用薬があり皮膚科領域で汎用されているため、クリームの手足症候群への治療効果について臨床試験を進めている。外用薬であればがん治療に支障を来す懸念が少なく、患者のQOL向上が期待できる」と展望している。

(編集部)