RSウイルス(RSV)感染症は、低出生体重児および基礎疾患を有する児において特に重症化リスクが高く、重症化抑制のため抗RSVヒト化モノクローナル抗体パリビズマブ(商品名シナジス)が適応となる。一方、入院例の多くを占める基礎疾患がない正期産児におけるRSV感染症予防策はこれまでなかった。こうした状況下、今年(2024年)1月に「妊婦への能動免疫による新生児及び乳児におけるRSVを原因とする下気道疾患の予防」を適応とする組換えRSVワクチン(商品名アブリスボ筋注用)が承認された。アブリスボの販売元であるファイザーが開催したメディアセミナーにおいて、日本大学小児科学分野主任教授の森岡一朗氏は、小児RSV感染症予防策の現状と課題、母子免疫ワクチンの意義について解説した。

パリビズマブが適応となる児はごくわずか

 RSVは乳児の69%が出生後1年以内に感染し、基礎疾患の有無にかかわらず小児の下気道疾患による入院の主因となる(出典:国立感染症研究所)。治療法は対症療法のみで、RSV感染を経験した小児は将来、気管支喘息を発症するリスクがあるとの報告がある。

 森岡氏はRSV感染予防の重要性を強調した上で、パリビズマブ導入後におけるRSV感染症入院児の特徴について国内の報告を紹介した。

 東京医療保健大学・大学院教授の楠田聡氏らの研究では、2007年10月~08年4月に12の医療機関に入院した児8,163例のうちRSV感染による入院例811例の特徴を検討している。それによるとパリビズマブ投与例は24例のみ。パリビズマブの適応であるにもかかわらずパリビズマブを投与していなかった例は28例で、パリビズマブを投与しなかった児の5例が死亡した。入院時のRSV感染児の平均年齢は12.4±12.7カ月で、生後24カ月未満が86.4%を占めた(Pediatr Int 2011; 53: 368-373)。

 また森岡氏らが実施した2018年の調査では、3歳未満のRSV感染症入院児900例のうちパリビズマブ不適応が878例(97.6%)を占めたという(Pediatr Int 2021; 63: 219-221)。

母子免疫ワクチンは患者負担を軽減し、流行時期にかかわらず感染予防

 以上のようにパリビズマブによるRSV感染症重症化予防効果について説明した上で、森岡氏は現状の課題について解説。パリビズマブは流行開始前から1回15mg/kgを1カ月ごとに筋注するが、低月齢児およびその親にとって頻回の受診と注射の負担は大きいと指摘した。

 さらにRSV感染症の流行初期からの接種が必要とされるものの、流行期は毎年異なり予測が困難であることにも言及。パリビズマブは不適応例が多く、適応例であっても患者の負担が大きいことを説明した上で、同氏は母子免疫ワクチンの有用性について「流行期の年変動にかかわらず、生後早期の乳児においてRSV感染予防が期待できる。乳児に対する頻回の筋肉注射が必要ないため、患者負担の軽減にもつながる」と述べた。

 その上で「これまで95%以上のRSV感染症入院児は基礎疾患がなく、かつパリビズマブの適応外であった。今回発売された母子免疫ワクチンは、この課題を解決する唯一のワクチンであり、今後定期接種化も視野に使用が広がっていくことが望ましい」と期待を込めた。

服部美咲