人工知能(AI)利用による医療の効率化が期待される中、AI診断の欠点を補完する人材の養成ニーズが高まっている。従来の技術ではAI画像の生成に膨大な時間を要することから、大量の画像を使用した教育手法は現実的でなかった。しかし近年、画像生成が効率化された画像生成系AIが登場し、画像読影者養成の効果検証が可能となった。広島大学大学院医療のためのテクノロジーとデザインシンキング寄附講座教授の田淵仁志氏らの研究グループは、AIによる合成画像を用いた網膜疾患診断トレーニング法を開発。トレーニングを受けた学生が、最新のAIモデルと同等以上の診断精度を示したなどとする結果をBr J Ophthalmol2024年3月14日オンライン版)に発表した。

トレーニング後の標準画角画像診断の正答率はAIの40%を超え70%

 田淵氏らは、画像生成系AIモデルであるStable Diffusion 1.0(Stability AI)を使用し生成した600枚の合成網膜画像を用いたe-ラーニングコースを、視能訓練士過程の全学生161人を対象に実施した。

 診断トレーニングコースは、5つの網膜疾患(網膜剝離、緑内障加齢黄斑変性、血管閉塞症、糖尿病網膜症)および正常眼底の6つの状態を示す各100枚のAI合成画像で構成される。実際の患者画像を用いて性能評価を行い、6状態各20枚の画像を2種類の画角で2回実施した。画角は、AIが学習した220度画像(眼底の8割を撮影範囲とする超広角画像)および未学習の50度画像(一般的な健康診断で用いられる眼底中心部を精査する標準画角画像)を使用した。被験者は平均53分間でコースを完了した。

 超広角画像における平均診断正答率は学習前の43.6%から学習後には74.1%に、標準画角画像では42.7%から68.7%に向上した(いずれもP<0.0001)。超広角画像で学習した最新AIモデル(英・エディンバラ大学)の正答率は73.3%、標準画角画像では40%で、被験者の診断精度は最新AIモデルに匹敵する上に、汎化性能で大きく上回った。

今後は全診療科を対象としたMRI、CT、エコー等のあらゆる画像分野にも応用

 以上の結果を踏まえ、田淵氏は「今回の研究はAIが人間のスキルを代替するのではなく、強化してくれる可能性を示した」と結論。「従来の教科書スタイルでは自学自習が難しい眼科専門疾患(眼瞼腫瘍、角膜感染症、眼位異常など)およびOCTなどの最新撮影デバイスに関する眼科専門医の診断技術を大量のAI合成画像でトレーニングしブラッシュアップする医師の生涯学習ツールとして提供可能。全診療科を対象としたMRI、CT、エコーなどのあらゆる画像分野にも応用が可能である」と述べている。

 その上で「東南アジア諸国を念頭に置いた海外における医療画像診断AIおよび本手法による学習者による2段階診断システムを学習者の養成を含めたパッケージとして展開し、画像診断だけでなく手術技術領域にも展開していきたい」と展望している。

栗原裕美