糖尿病の発症・進展と歯周炎が相互に関連することが示されており、糖尿病管理の1つとして歯科治療がある。近年、2型糖尿病患者に対する歯周炎治療により、血糖値が改善することが報告されている。しかし、糖尿病治療による歯周炎改善効果についてはほとんど検討されていない。東京医科歯科大学大学院歯周病学分野講師の水谷幸嗣氏、教授の岩田隆紀氏らは、九州大学、横浜市立みなと赤十字病院、総合南東北病院(福島県)との共同研究を行い、2型糖尿病への集約的治療により歯周病の炎症や検査値が改善することをJ Clin Periodontol2024年3月6日オンライン版)に報告した。

歯周ポケットの総面積とHbA1c値、空腹時血糖値に有意な相関

 これまでに水谷氏らは、血糖管理が困難な2型糖尿病患者において、歯周炎の原因となるプラークの付着量にかかわらず炎症を起こしている歯周ポケットの総面積(PISA)とHbA1c値および空腹時血糖値に有意な相関関係があることを報告している。同氏らはこの報告に基づき、血糖管理の改善により歯周炎が軽減するとの仮説を立てた。血糖管理が困難な2型糖尿病患者における糖尿病に対する集約的治療が歯周炎に及ぼす影響を検討した。

 対象は、東京医科歯科大学病院で血糖管理が困難かつ2週間の教育入院と継続的な外来診療を受け、歯科検査を希望した2型糖尿病患者71例のうち、緊急の歯科治療の必要がない51例。教育入院中に薬物療法、食事療法、定期的な運動を含む生活習慣の改善の指導を受け、退院後も外来で治療と生活指導を6カ月間継続した。また検討開始時点、開始1、3、6カ月後に糖尿病治療効果の包括的評価の一環として口腔内検査を実施した。口腔内検査では、歯周病検査、口腔衛生指導、歯肉縁上の歯面清掃を毎回行い、急性炎症などで早期の治療を必要とする例には処置を行い、対象から除外した。

4mm以上の歯周ポケットの割合は糖尿病治療後に5.5%減

 解析の対象となったのは33例(平均年齢58.7±12.9歳)で、平均HbA1c値はベースライン時の9.69±1.8%から1カ月後に7.9±1.2%、6カ月後には7.4±1.3%に改善した。歯の本数(平均24.3±5.5本)は全例変化がなかった。

 6カ月後の歯周炎パラメータの変化は次の通りだった。歯周ポケットの深さは平均2.3±0.6mm→2.0±0.5mm、4mm以上の歯周ポケットの割合は12.3±13.4%→6.8±9.3%、プロービング時出血(BOP)は25.3±18.8%→9.7±9.7%に、PISAは318.3±280.0mm2→134.8±165.6mm2にいずれも改善した。

口腔清掃状態とは関係なく歯周病パラメータが有意に改善

 これらの結果について、歯周病の治癒に影響する因子である喫煙、BMIの変化、歯へのプラーク付着量(プラークコントロールレコード)を調整して解析したところ、歯周ポケットの深さの平均、PISAの減少量が、HbA1c値の改善と有意に相関していた。

 水谷氏らは、この結果について「興味深いことに、歯周組織の炎症に直結する因子である口腔清掃状態とは無関係に、糖尿病治療後に歯周病パラメータの有意な改善が見られた。これは、高血糖が誘発する歯周組織における炎症が、糖尿病治療によって除去されたという機序を支持するものである」と考察。「2型糖尿病患者の歯周炎は、血糖管理が困難な症例ほど糖尿病治療によって改善する可能性が考えられる。これまでの疫学研究で示唆されている糖尿病と歯周炎の双方向の関連を、糖尿病の治療効果によって明確に裏付ける結果となった。糖尿病治療において医科歯科連携を促進すべきことがあらためて示唆された」と述べている。

栗原裕美