新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が5類感染症に移行して約1年が経過し、流行規模の縮小や重症例の減少が見られる一方、COVID-19の罹患後症状(以下、罹患後症状)に悩む人はいまだ多い。中長期的な罹患後症状を有する患者は10~20%に上るとの報告もあるが、その疫学は十分に解明されていない。広島大学大学院疫学・疾病制御学講師の杉山文氏らは、罹患後症状に関する大規模疫学調査を実施。女性、喫煙者、糖尿病などの高リスク集団を同定し、年齢別には30~49歳の世代で調整後オッズ比(aOR)6.5とリスクが最も高かったことをSci Rep(2024: 16;143884)に報告した。
広島県の第二種感染症指定機関のデータを解析
世界保健機関(WHO)は、罹患後症状について「少なくとも2カ月以上持続し、他の疾患による症状として説明がつかないもの。通常はCOVID-19発症から3カ月時点にも見られる。症状は疲労感・倦怠感、息切れ、思考力や記憶への影響などで日常生活に影響することもある。急性期から回復した後に新たに出現する症状と急性期から持続する症状がある」と定義している。患者数は世界で少なくとも6,500万人と推定されるが、罹患後症状に関する疫学的な検討は少ない。
そこで杉山氏らは今回、罹患後症状の症状別の頻度や持続期間、好発年齢、性差などを明らかにする目的で大規模疫学調査を実施した。
対象は、2020年3月~22年7月(流行第1波~第7波)に広島県の第二種感染症指定医療機関でCOVID-19と診断された6,551例。自記式質問票を用いて、COVID-19罹患後に出現し、急性期からの回復後も持続する症状の有無、種類、期間、日常生活への影響について尋ねた。COVID-19の重症度、罹患後の回復状況、罹患前のmRNAワクチン接種歴、既往歴などの情報も収集した。
重症度は酸素投与の必要性に基づき、軽症(不要)、中等症(必要)、重症(非侵襲的/侵襲的機械換気使用)に分類。罹患時期は、①2020年3月~21年2月(起源株期間)、②21年3~6月(アルファ株期間)、③2021年7~11月(デルタ株期間)、④21年12月~22年7月(オミクロン株期間)-に分けた。
罹患後症状の有病率は、急性期回復時点(隔離解除)、急性期回復後の経過観察時点で重症度を問わずに算出し、日常生活に支障を来す症状の有病率も算出した。
性、年齢、罹患時期、罹患時の重症度、罹患前のmRNAワクチン接種歴、喫煙習慣、飲酒習慣、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病(CKD)の既往を調整した多変量ロジスティック回帰分析を行い、aORを算出した。
オミクロン株期間、重症度、ワクチン接種歴、飲酒、高血圧、CKDは関連せず
2,421例(成人1,391例、小児1,030例)から回答を得た。主な背景は、男性が51.2%、年齢中央値が34歳〔四分位範囲(IQR)9~55歳〕、罹患時期は起源株期間が16.8%、アルファ株期間が13.2%、デルタ株期間が13.1%、オミクロン株期間が56.9%、診断から調査までの期間の中央値は295日(同201~538日)だった。重症度は、無症状1.5%、軽症89.3%、中等症7.1%、重症2.0%だった。罹患前のワクチン接種歴は、未接種72.2%、1~2回接種17.5%、3回接種3.6%、4回接種0.1%だった。小児は89.6%がオミクロン株期間に罹患し、重症例はなかった。
罹患後症状の有病率は、急性期回復時点が成人で78.4%、小児で34.6%。成人では疲労感(52.1%)、咳嗽(39.3%)、息切れ(37.5%)が、小児では咳嗽(21.6%)、疲労感(12.8%)、頭痛(11.3%)が多かった。回復後3カ月経過時点の有病率は成人が47.6%、小児が10.8%、1年以上経過時点ではそれぞれ31.0%、6.8%だった。
日常生活に支障を来す罹患後症状が3カ月以上持続していたのは304例(12.6%)。多変量解析の結果、独立した危険因子として女性(aOR 2.1、95%CI 1.6~2.8、P<0.0001)、年齢(参照群12歳以下、13~29歳:同 4.3、2.4~7.7、30~49歳:同6.5、3.8~11.2、50~69歳:同5.5、3.2~9.7、以上P<0.0001、70歳以上:同3.8、1.9~7.4、P=0.001)、デルタ株期間(参照群起源株期間:同2.0、1.4~3.1、P=0.0006)、喫煙習慣(同1.8、1.2~2.7、P=0.0079)、糖尿病(同2.0、1.2~3.3、P=0.0099)が抽出された(図)。一方、アルファ株期間およびオミクロン株期間、COVID-19重症度、ワクチン接種歴、飲酒習慣、高血圧、CKDとの関連は認められなかった。
図.3カ月以上持続する日常生活に支障を来す罹患後症状の危険因子
(広島大学プレスリリースより)
以上の結果を踏まえ、杉山氏らは「COVID-19の急性期回復時点で、成人の約8割、小児の3割超になんらかの症状が認められた。その後、3カ月以内に成人の約4割、小児の約7割で症状が消失したものの、3カ月以上持続した症例では成人、小児とも約6割が1年以上同じ症状に悩まされていた。3カ月以上持続する日常生活に支障を来す罹患後症状の危険因子は、女性、年齢、喫煙、糖尿病などで、特に30歳以上の世代が高リスク集団であることが示された。現役世代の健康状態の悪化は広く社会的意味を持つ可能性がある」と結論。「今後、さらなる追跡調査を行い罹患後症状の長期経過を明らかにしたい」と付言している。
(服部美咲)