αシヌクレインという蛋白質の凝集体が神経細胞に蓄積して細胞死を引き起こす病態はαシヌクレイノパチーと総称され、パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA)、レビー小体型認知症(DLB)、純粋自律神経失調症(PAF)などが含まれる。米・Beth Israel Deaconess Medical CenterのChristopher H. Gibbons氏らは、簡便な方法によりαシヌクレイノパチー患者の皮膚からリン酸化αシヌクレイン(P-SYN)を高確率で検出することに成功したとJAMA(2024年3月20日オンライン版)に発表。簡便な新検査法の開発につながることが期待されるという(関連記事「採血で認知症の診断が可能に?」「αシヌクレイン、血液検査で検出可能に」)。
P-SYN蓄積は発症に10~20年先行する
αシヌクレオパチーの患者は米国に約250万人いると推定される。国内患者数については正確な統計がないが、60万人は下らないと考えられる。疾患により予後や治療法は異なるが、いずれも進行性の神経変性疾患で、振戦や認知機能低下など一部の臨床的特徴は共通しており、皮膚の神経線維に異常蛋白質であるP-SYNが蓄積する。
根治療法はなく対症療法が中心だが、P-SYNの蓄積は臨床症状の発現に10~20年先行して起こるとされており、早期発見のために信頼性が高い診断的バイオマーカーの特定が喫緊の課題となっている。しかし、αシヌクレインは血中には微量しか含まれないため、これまで血液検査による検出は困難だった。
Gibbons氏らは今回、PD、DLB、MSA、PAF患者の皮膚におけるP-SYN沈着の陽性率を評価する二重盲検横断研究Synuclein-Oneを実施。30施設で2021年2月~23年3月に専門家が臨床的な合意基準に基づきPD、DLB、MSA、PAFと診断した40~99歳の患者と、αシヌクレオパチーまたは神経変性疾患の所見や症状を示唆する既往がない年齢をマッチングした対照群の計428例を登録した。
全例に神経学的精密検査と疾患特異的な質問票調査を行い、頸部、膝、足関節の3カ所から3mmパンチ生検により標本を採取。採取した生検標本を用いて免疫組織学的検査を実施し、P-SYNの有無を特定した。最終的な臨床診断は病理データを盲検化した専門家パネルが行った。
患者群では高確率でP-SYNを検出
428例のうち専門家パネルによる評価で合意基準を満たしたαシヌクレオパチー患者223例および対照群120例の計343例(平均年齢69.5±9.1歳、男性51.0%)を主解析に組み入れた。
検討の結果、皮膚生検による免疫組織化学的なP-SYNの検出率は、PD群で96例中89例(92.7%)、MSA群で55例中54例(98.2%)、DLB群で50例中48例(96.0%)、PAF群で22例中22例(100%)、対照群で120例中4例(3.3%)だった。
Gibbons氏らは「PD、DLB、MSA、PAFの臨床的な合意基準を満たす患者において、皮膚生検により高確率でP-SYNが検出された」と結論。ただし、「今回の結果の外的妥当性と、皮膚生検によるP-SYN検出の臨床的意義を見極めるには、一般の臨床集団を対象としたさらなる研究が必要である」と付言している。
なお、同氏らは皮膚生検標本におけるP-SYNの検出量と分布範囲の差により、MSAとPDを鑑別できることを昨年(2023年)Neurology(2023; 100: e1529-e1539)に報告している。疾患ごとの特徴解明がさらに進めば、臨床試験に登録する患者の最適化ができ、神経変性領域の薬剤開発に拍車がかかることが期待される。
(小路浩史)