難聴は認知症の修正可能な最大の危険因子であることが報告されている。補聴器装用による認知機能低下の抑制が報告されているが、装用しても雑音下での言葉の聴取は困難である。今年(2024年)1⽉、雑⾳下聴取能を測定し数値化する検査法としてAudible Contrast Threshold(ACT)が登場した。済生会宇都宮病院(栃木県)耳鼻咽喉科主任診療科長/聴覚センター長の新田清一氏は、2月21日に開かれたメディアラウンドテーブル(主催:デマント・ジャパン)で、補聴器の課題であった雑音下語音の聴取能が高精度に予測できるとし、「ACTは補聴器の雑音抑制機能を設定する際の指標となる」と述べた。(関連記事「難聴治療で認知機能低下を抑制」「補聴器の使用で認知症リスクが低減」)

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欧米に比べ日本は補聴器の普及率が低い

 2020年に世界人口の9.3%(7億2,800万人)だった65歳以上の割合は、2050年には15.9%(15億4,900万人)まで増加すると試算されている。日本では28%から38%への増加が見込まれている。

 加齢に伴い認知症のリスクが高まるが、2020年7月にLancet認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会報告を改訂。難聴は認知症の修正可能な最大の危険因子であると指摘し、補聴器の使用を促している(Lancet 2020; 396: 413-446)。

 しかし補聴器の普及率は、欧米の37~53%に比べ、日本は15%、装用による満足度はそれぞれ71~81%、15%といずれも日本で極めて低い()。これらに加え、補聴器で聞き取り音を増幅しても雑音下で言葉を聴取し理解するのは難しいことから、日本では雑音下での使用に対する満足度も低い。

図. 欧米および日本における補聴器の普及率、両耳装用率、満足度

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(デマント・ジャパン発表資料)

補聴器ユーザーの86%は騒がしい場所での会話の聞き取りが困難

 一般的な聴力検査である標準鈍音聴力検査や語音聴力検査の他、騒がしい場所での会話の聞き取りを測定する雑音下語音聴取検査(HINT)がある。

 しかしHINTは時間を要し、新田氏は「補聴器ユーザーの86%が騒がしい場所での会話の聞き取りは困難との報告がある。HINTは、補聴器の雑音抑制機能を設定する指標としての精度が十分でない」と指摘した。

 こうした背景から高精度のHINTの開発が求められる中、今年1月にACTが登場した。純音を刺激音として用いる従来の聴力測定検査では、被験者が聞こえる最も小さい音の聴力閾値を測定する。一方、ACTはこの聴力閾値を考慮し、ヘッドホンから各被験者の閾値レベルの刺激音を提示し、雑音下聴取能を客観的に測定する。日本語に加え他言語を話す被験者にも実施可能な上、広い検査スペースや設備が不要で2~3分の短時間で行える。

 今回、日本・オトクリニック東京とドイツ・リューベック応用科学大学は、補聴器装用経験を有する軽度~重度難聴者(ドイツ81人、日本19人、平均年齢66歳)を対象にACTの有効性を検証する共同研究を実施した。評価項目は、①ACTと雑音下語音聴取能の関連性、②ACTの再検査の信頼性、③ACTに基づく補聴器の騒音下サポート設定処方の使用効果―とした。

ACTの再検査信頼性は高い

 検査時は補聴器の雑音抑制機能をオフにして増幅のみの状態で行った。検討の結果、先行研究と同様にACTと雑音下語音聴取に有意な相関関係が認められた(r= 0.70 、P<0.001、日本単独: r=0.85、P<0.001、ドイツ単独:r=0.6、P<0.001)。

 同日に2回行ったACTの級内相関係数は0.95と再検査信頼性は高く、単回測定で十分に評価可能なことが示唆された。

 対象を雑音下語音聴力能に応じて3つのグループに分け、補聴器雑音抑制機能のサポートレベル(オフ、弱、中、強)ごとに読音聴取閾値(SRTn)の変化を見た。

 検討の結果、第1グループ(雑音下語音聴力能が良好)は補聴器の雑音下語音聴取のサポート機能は弱で十分であった。一方、第2グループ(雑音下語音聴力能が普通)は中程度のサポートレベルが、第3グループ(雑音下語音聴力能が不良)は強いサポートレベルが必要であることが示された。

 以上の結果を踏まえ、新田氏は「補聴器を装用する難聴者へのACT測定は、雑音下聴取能の予測に優れ雑音抑制などの補聴器機能を設定する際に有用な指標となる」と述べた。

(編集部)