慢性腎臓病(CKD)、2型糖尿病高血圧は腎不全につながる3大疾患であり、それぞれに対する有効な治療法が利用可能である。しかし、これら3疾患を合併している患者に対するガイドライン推奨治療の実施状況を検討した大規模な試験は存在しない。米・University of Texas Southwestern Medical CenterのMiguel A. Vazquez氏らは、電子健康記録(EHR)を用いた患者同定システムと診療推進者(practice facilitator)を備えたプライマリケアクリニックを‟介入群"とし、通常診療のみを行うクリニック(通常ケア群)と比較する非盲検のクラスターランダム化試験を実施。「両群間で1年経過時点の入院率に差はなかった」とN Engl J Med(2024; 390: 1196-1206)に報告した。

実臨床における介入のeffectivenessを評価する試験

 今回の試験は実臨床における介入の効果(effectiveness)を評価する方法として、近年注目を集めているpragmatic trialと呼ばれる試験であり、施設(クリニック)を単位(クラスター)として‟介入群"と"通常ケア群"を比較した試験だ(Pragmatic Trials のススメ)。

 Vazquez氏らは、米国の4つのプライマリヘルスケアシステム(Parkland Health、Texas Health Resources、Veterans Affairs of North Texas Health Care System、ProHealth Physicians of Farmington)傘下の141のプライマリケア施設を、EHRに基づくアルゴリズムで該当患者を同定するシステムおよび診療推進者(看護師あるいは薬剤師がfacilitatorの役割を担当)を備えた介入群(71施設)と、通常治療のみを行う群(70施設)にランダムに割り付けた。

1年後入院率は両群とも約20%

 2016年7月~19年6月に介入群から5,690例(平均年齢68.1±10.4歳、男性53.7%)、対照群から5,492例(同68.9±10.3歳、53.7%)のCKD+2型糖尿病+高血圧を合併する患者を登録した。ベースラインにおけるその他の患者背景(eGFR 、蛋白尿、HbA1c、血圧、処方薬)についても両群で差はなかった。

 試験の結果、主要評価項目である1年後の入院率は通常ケア群の21.1%(95%CI 20.1~22.2%)に対し、介入群で20.7%(同19.7~21.1%)と有意差はなかった(P=0.58)。

 副次評価項目である救急搬送、初回入院から30日以内の再入院率、心血管イベント発生数、透析導入率、死亡に関しても両群で差はなかった。有害事象発生率にも差はなかったが、急性腎障害は介入群で若干多かった(12.7% vs. 11.3%)。

外的妥当性を評価する試験だが今回は差が示されなかった

 以上の結果を踏まえ、Vazquez氏らは「pragmatic trialは実臨床に根付いている臨床介入のeffectivenessの外的妥当性に関する評価尺度を提供するものである。今回の検討では、EHRと診療推進者による‟介入"があっても入院率に差はなかった」と結論。「ベースラインにおいて通常ケア群でも既に薬物治療を受けている患者の割合は高く、そのことが、主要評価項目において‟介入"効果が明確に現れなった理由かもしれない」と付言している。

木本 治