尋常性痤瘡治療に頻用されるクリンダマイシン外用薬の添付文書には、副作用の1つとして消化器障害が記載されているものの、実際の頻度は不明である。米・Donald and Barbara Zucker School of MedicineのNatalia M. Pelet Del Toro氏らは、尋常性痤瘡にクリンダマイシン外用薬を使用した際の消化器系有害事象を調べる目的でレビューを実施。医薬品安全性監視(ファーマコビジランス)データを用いた検討において、同薬使用による消化器系有害事象の発生率は0.000045%と非常に低かったことなどをJ Dermatolog Treat(2024; 35: 2325603)に報告した。(関連記事「皮膚疾患患者としての旅はどう始まるか」「痤瘡瘢痕、こんな治療が行われている」)
医薬品安全性監視データ調査で偽膜性大腸炎の報告は見られず
クリンダマイシンはリンコマイシン系の抗菌薬で、尋常性痤瘡治療において日本では過酸化ベンゾイルとの配合薬として使用されることも多い。経口薬の使用時にはClostridioides difficile(C. difficile)大腸炎を含む消化器系有害事象への注意が求められている一方、外用薬については重大な副作用として添付文書に大腸炎の記載があるものの、実際の頻度は明らかでない。
そこでPelet Del Toro氏らは、医薬品安全性監視データを収集し、同薬における消化器系有害事象、薬剤耐性リスクについて検討した。1990年1月〜2022年12月にクリンダマイシン含有外用薬の使用が推定された1億4,108万4,533人のうち、消化器系有害事象は64人(0.000045%)から103件の報告があった。103件中89件は軽度で、偽膜性大腸炎やC. difficile感染/大腸炎の報告はなかった。
カルテデータの後ろ向き研究でも低い発生率
また、40超の医療提供ネットワークと米国の患者5,300万人の電子カルテデータで構成されるIBM Explorysデータベースを用いて2つの後ろ向きコホート研究を行った。
1つ目の研究では、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)の既往の有無別に、尋常性痤瘡患者に対するクリンダマイシン外用薬の処方頻度を検討した。対象となった7万666例のうち、炎症性腸疾患既往例は515例であった。過去1年間のクリンダマイシン外用薬処方率は炎症性腸疾患既往例で19.0%、非既往例で20.7%と両者で差がなかった。
2つ目の研究では、尋常性痤瘡患者におけるクリンダマイシン外用薬の初回処方から30日以内の偽膜性大腸炎の発生率を解析した。対象として2万8,422例の患者が同定され、炎症性腸疾患既往例の割合は2%未満であった。偽膜性大腸炎の偶発症例は3例(いずれも炎症性腸疾患の既往なし)確認された。内訳は2例がクリンダマイシン外用薬+トレチノインまたは過酸化ベンゾイル併用例、1例がクリンダマイシンの外用薬と経口薬の併用例で、クリンダマイシン外用薬単剤療法例における偽膜性大腸炎の発生は見られなかった。
臨床試験8件における消化器系有害事象は1.4%
さらにPelet Del Toro氏らは、PubMedに登録された研究論文、または米食品医薬品局新薬承認申請された尋常性痤瘡患者に対するクリンダマイシン外用薬の臨床試験から消化器系有害事象の安全性データを収集し、検討した。安全性データが記載されていたのは8試験で、解析対象集団2,672例のうち、消化器系有害事象は38例(1.4%)で見られた。
なお、PubMedでクリンダマイシン外用薬関連大腸炎に関する論文を検索したところ、4件の症例報告がヒットした。4件ともクリンダマイシン外用薬を尋常性痤瘡治療に用いており、2件はC. difficile陽性検査を受け、偽膜性大腸炎が確認されていた。他の2件は下痢/軟便を経験し、クリンダマイシンの中止により消失したとの報告だった。
以上から、同氏らは「世界的な医薬品安全性監視データ、米国での後ろ向き処方データ、臨床試験における安全性データなどを検討した結果、クリンダマイシン外用薬の使用による大腸炎発生率は極めて低いことが示された」と結論。研究の限界として、有害事象または処方データの過少/不正確な報告などの可能性を指摘している。
(編集部)