日本肥満学会は、肥満症を「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測される場合で医学的に減量を必要とする疾患」と定義している。耐糖能障害や高血圧、冠動脈疾患など肥満症はさまざまな疾患を合併するリスクが高いため、適切な医療的介入が重要となる。日本医療政策機構は、肥満症肥満に対する社会の関心を高め、効果的な対策を推進する「肥満症対策推進プロジェクト」の一環として、肥満症患者、医療関係者に対するヒアリングおよび産官学民の有識者から成るアドバイザリーボード会合を実施。これらの結果に基づき肥満症対策における6項目の提言を公表した。(関連記事「日本肥満学会、ウゴービ皮下注発売を受け声明」)

肥満症に対するスティグマや理解不足が課題

 ヒアリングの対象は、肥満症と診断され治療を受けた患者4人(40歳代男性2人、30歳代女性1人、50歳代女性1人)。2023年9~11月に対面調査を行い、①治療開始前の苦労や状況、②健康診断・医療機関との接点、③肥満症治療専門機関にたどり着いたきっかけ、④治療、⑤肥満症に対する思い、課題-について聞き取り、患者が診断・治療を受ける工程を表すペイシェントジャーニーを作成した。

 肥満症当事者の声として、肥満症に対するスティグマおよびセルフスティグマ、肥満症への理解不足による心理的苦痛、医療アクセス不良、治療の効果および継続に関する課題などが挙げられた(表1)。

表1.肥満症当事者の声 (一部抜粋)

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 肥満症当事者の実態や当事者視点の課題が整理されたことを踏まえ、日本医療政策機構は医療関係者に対するヒアリング、アドバイザリーボード会合などを実施。これらの結果に基づき当事者の視点に基づく社会、医療において求められる肥満症対策をまとめ6項目の提言を公表した(表2)。

表2.肥満症対策に求められる6つの提言

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(表1、2ともに日本医療政策機構資料より編集部作成)

 今回の提言について、アドバイザリーボードメンバーで日本肥満症治療学会理事長/千葉県立保健医療大学学長の龍野一郎氏は「これまでは肥満を個人の過食・運動不足によるものとして、自己責任と捉える傾向があり社会としての取り組みが遅れてきた。しかし、近年の研究では肥満症には遺伝的素因の影響が大きいことが示されている」と指摘。その上で「今後はこの提言に基づき、患者・市民・地域が参画、協働して肥満症対策を行うことが重要である」と展望した。

服部美咲