慶應義塾大学衛生学公衆衛生学教室の松元美奈子氏らは、山形県鶴岡市で行われている鶴岡メタボロームコホート研究(TMCS)の参加者3,693例の医療保険請求データを用い、心血管疾患(CVD)の主要危険因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病の治療薬の継続使用者におけるアドヒアランス(服薬遵守)について検討。その結果、併存疾患がない各治療薬の単独使用者では高血圧、糖尿病、脂質異常症の順に服薬遵守率が高く、服薬不遵守の予測因子は治療薬ごとに異なっていたとPharmacoepidemiol Drug Saf(2024; 33: e5855)に発表した。
高血圧90.2%、糖尿病81.2%、脂質異常症80.8%
TMCSは2012~15年に35~74歳の鶴岡市民1万1,002例を対象に行われた地域コホート研究で、現在も追跡調査を継続中。今回の解析対象は、2016~20年のTMCS追跡調査に参加し、高血圧、脂質異常症、糖尿病の治療薬を継続使用していた3,693例(平均年齢68.7歳、男性47.5%)。継続使用の定義は、調査参加後の初回処方日からさかのぼった180日間に56日分以上を処方されていた場合とした。診断および治療薬の情報は医療保険請求データから、生活習慣や既往歴などの情報は質問票を用いて収集した。
主要評価項目は、各治療薬の処方日数を追跡調査日数(365日)で除した治療日数カバー比率(PDC)により評価したアドヒアランスとし、PDCが0.8(80%)未満の場合にアドヒアランス不良(服薬不遵守)とした。
処方の内訳(重複あり)は、高血圧治療薬が2,702例(73.2%)と最も多く、脂質異常症治療薬が2,112例(57.2%)、糖尿病治療薬が661例(17.9%)だった。
全体での服薬遵守率は87.0%だった。治療状況別での服薬遵守率は、併存疾患がある複数の治療薬の併用群では86.7~89.0%と差がなかったが、併存疾患がない単独使用群では高血圧治療薬単独群が90.2%と最も高く、次いで糖尿病治療薬単独群が81.2%、脂質異常症治療薬単独群が80.8%だった。
脂質異常症のみの無症候患者は服薬不遵守になりがち
多変量ロジスティック回帰分析により服薬不遵守との関連が示された因子は、高血圧患者群では朝食抜き(調整後オッズ比1.90、95%CI 1.13~3.21)と治療薬に関する十分な理解(同0.48、0.26~0.89)、脂質異常症患者群では男性(同0.71、0.52~0.97)、併存疾患あり(同0.64、0.49~0.82)、心疾患既往歴あり(同0.51、0.33~0.79)、現飲酒者(同1.60、1.08~2.36)、糖尿病患者群では良質の睡眠(同2.06、1.02~4.16)と朝食抜き(同2.89、1.19~7.00)だった。
松元氏らは「高血圧患者では朝食抜きと治療薬に関する理解不足、脂質異常症患者では女性、併存疾患なし、心疾患既往歴なし、現飲酒者、糖尿病患者では良質の睡眠と朝食抜きが服薬不遵守の予測因子であることが示された。これらの予測因子は服薬支援が必要な患者の特定に有用な可能性がある」と結論。「脂質異常症のみの無症候患者は、治療の効果や必要性を実感しにくい可能性がある。一方、併存疾患がある者や心疾患の再発予防薬を使用している者は、リスクを認識して服薬の指示に従う可能性が高い。また、朝食後の服用を指示される治療薬が多いため、朝食抜きで服薬も忘れる可能性がある」と説明している。
(医学翻訳者/執筆者・太田敦子)