GLP-1受容体作動薬は、アルツハイマー病(AD)高リスク例における神経毒性を修正する可能性があるとして注目されている。英・University of OxfordのIvan Koychev氏らは、GLP-1受容体作動薬エキセナチドによる心血管イベント低下効果の検証を目的とした多国籍プラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験EXSCELの事後解析を実施。その結果、ADに関連する蛋白質と経路に有意な変化が見られたとAlzheimer's Res Ther2024; 16: 212)に報告した(関連記事「GLP-1受容体作動薬がパーキンソン病治療薬に?!」)。

4種の蛋白質と蛋白質クラスターに注目

 GLP-1受容体作動薬は、インスリンの分泌促進や食欲抑制/抗炎症効果の他、脳血管リスクの低減や神経組織への作用などが知られる。低血糖リスクが少ないため、非糖尿病の人にも安全に使用でき、動物モデルでは、GLP-1受容体の神経再生への関与による認知機能の向上や神経成長が観察されている。また、疫学研究からもGLP-1受容体作動薬と認知症発症リスク低減との関連が示されており、長期使用によりさらにリスクが低減することが報告されている

 EXSCEL試験では、2型糖尿病患者1万4,752例を心血管疾患の有無に応じて層別化し、エキセナチド群(週1回2mg)とプラセボ群に割り付け、12カ月治療した。追跡期間の中央値は3.2年だった。

 今回の検討では、ベースラインと1年後の血液試料が得られた3,973例について4,979種の蛋白質を測定した。注目したのは、ADで増加することが示されている4種の蛋白質と蛋白質クラスター。前者はC反応性蛋白(CRP)、フィコリン-2(FCN2)、プラスミノーゲンアクチベータインヒビター(PAI)-1、可溶性血管細胞接着分子(sVCAM)-1であり、後者はサイトカイン受容体相互作用経路(M2およびM3経路)、代謝経路(M4経路)、未分化経路(M8経路)である。

 これらについて、多変量混合効果モデルにより解析を行った。効果量はCohen's dで表し、偽陽性の割合(FDR)で補正した有意差を求めた。

AD予防や進行抑制に寄与する可能性

 ベースラインにおける背景として、年齢、性、民族、地理的地域、喫煙状況、心血管疾患歴に両群で有意差は見られなかった。

 検討の結果、エキセナチド投与により、FCN2とPAI-1は有意に減少し(順にCohen's d -0.019、FDR P=0.035、同-0.033、FDR P=0.013)、sVCAM-1とM3経路は有意に抑制されていた(同0.035、FDR P=0.005、同0.037、FDR P=0.017)。

 危険因子に基づくサブ解析では、65歳以上で全体解析と同様の変化が見られたが、65歳未満では調整後に有意差が消失した。心血管疾患既往者では、FCN2が若干有意に減少してsVCAM-1とM2経路が増加し、非既往者では、PAI-1が若干有意に減少した。

 FCN2は、異常アミロイドやタウの除去に関与する免疫系の一部として機能しており、sVCAM-1は血管機能に関与し、認知機能の低下やAD発症リスクに関連することが知られている。今回の検討では、エキセナチド投与によりsVCAM-1が抑制されていたことから、Koychev氏らは「エキセナチドは特に血管病変のない人に有用な可能性がある」との考察を述べている。

 以上を踏まえ、同氏らは「GLP-1受容体作動薬は慢性的な炎症を抑制し、ADの予防や進行抑制に寄与する可能性がある」と結論している。

(医学ライター・小路浩史)