中国・Peking UniversityのNan Xiao氏らは、同国の大規模前向きコホート研究のデータを用いて若年成人期~中年期の所得変動と全死亡との関連を検討。その結果、ベースラインの所得に関係なく、絶対的な所得の50%以上の急減および他者と比較した相対的な所得の減少傾向(所得ランクの下降傾向)がともに全死亡リスク上昇と関連することが示されたとBMJ Public Health2024; 2: e001512)に発表した。50%以上の所得減少を2回以上経験した群では、全死亡リスクが42%高かったという。(関連記事「急激な財産喪失で中高年の認知機能が低下」)

相対的に低所得でもリスク増

 解析対象は、1989年、1991年、1993年、1997年にChina Health and Nutrition Survey(CHNS)の調査に応じた4,757例(平均年齢37.68歳、男性52.81%)。①絶対的な所得の急減(前回調査比50%以上減)の発生回数(0回、1回、2回以上)、②他者と比較した相対的な所得(所得ランク)の変遷パターン(高所得維持、上昇傾向、下降傾向、低所得維持)―の2種類の所得変動指標と全死亡との関連を検討した。

 中央値で14年の追跡期間における死亡は535例だった(1,000人・年当たり8.88)。

 ベースラインの所得、人口統計学的背景、社会経済的背景、生活習慣、併存疾患を調整後のCox比例ハザードモデルによる解析では、所得急減0回群と比べて2回以上群で全死亡リスクが有意に42%高かったが〔調整後ハザード比(aHR)1.42、95%CI 1.04~1.93、P<0.05〕、1回群では有意差がなかった(同1.06、0.86~1.32)。

 所得ランクの変遷も全死亡リスクと関連しており、高所得維持群と比べ、低所得維持群(aHR 3.61、95%CI 1.45~8.96)、下降傾向群(同3.36、1.36~8.32)、上昇傾向群(同2.92、1.14~7.51)で有意なリスク上昇が認められた(全てP<0.05)。

資産、世帯所得の多さでリスク軽減の可能性

 サブグループ解析では、2回以上の所得急減と全死亡リスクとの有意な関連は、資産が少ないグループ(aHR 1.90、95%CI 1.21~2.99)および世帯所得が少ないグループ(同1.56、1.04~2.34)のみで認められた(ともに交互作用のP=0.02)。

 以上を踏まえ、Xiao氏らは「ベースラインの所得に関係なく、若年成人期~中年期における絶対的な所得の急減と相対的な所得ランクの低さが死亡リスク上昇と関連することが示された」と結論。「多くの資産を蓄えている者や世帯所得が多い者は、死亡リスクに対する所得急減の影響が少ない可能性も示唆された。経済の先行きが不確実で所得変動が大きくなっている現在、所得急減が健康に及ぼす影響を軽減するための政策が求められる」と付言している。

(医学翻訳者/執筆者・太田敦子)