今年(2024年)4月から本格的に施行された医師の働き方改革は、労働環境を整備して医師の健康を確保し、質の高い医療を持続的に提供することを目的としているが、問題点も少なくない。北里大学呼吸器内科学診療准教授の中原善朗氏は11月20日、メディカルトリビューン主催セミナーで、働き方改革が医師の情報収集に及ぼす影響について解説。自施設の事例を紹介しながら診療・処方の実態や課題に加え、製薬企業の情報提供の在り方などに言及した。(関連記事「意外な結果に?働き方改革による影響を調査」「救急医療の働き方改革、情報共有が要」)

新型コロナの影響と内科ならではの業務負担

 医師の働き方改革とは、長時間労働を生む医療界の構造的な問題の解決に対する取り組みである。2020年来の新型コロナウイルス感染症流行が働き方に及ぼした影響について、中原氏は「当院では発熱肺炎、呼吸困難といった症状に対して皆が敏感になっている。特に発熱患者に対しては隔離措置を取る必要があり、内科系の診療科で全体的に業務量が増えている」と述べた。

 特に内科系専攻医が「忙しくなっているのではないか」という。「初期研修医は土日勤務がなく定時で帰宅できていると思うが、その分、専攻医にしわ寄せがいき、時間外業務が増えている。J-OSLER(専攻医登録評価システム)は自分の経験した症例を振り返り、複数の指導医からのフィードバックを受けられる優れたシステムであるが、分量が多く、専攻医の先生は大変だなと思う」と同氏は説明した。

 当然、働き方には医師数自体の増減も影響する。同氏は「入局者が少ないと若手医師の負担が増えるばかりか、学外病院に出向して主体的な臨床経験が積める機会が減少し、モチベーションの低下にもつながるのではないか」と懸念した。さらに、働き方を意識して「早期に在宅クリニックに転職する医師が増加している。ベテラン医師と専攻医は多いが中堅医師が少ないというアンバランスな人員構成の病院が多いのではないか」と指摘した。

診療アシスタントへのタスクシフトの有用性

 こうした現状に対し、中原氏は自施設での取り組みとして以下のようなタスクシフト/シェア事例を紹介した。

・内科系診療科全体で当直医のシフトを組み、オンコール対応と併用する
・初診外来は完全予約制とする
・カンファレンスは診療時間内に実施し、時間は短縮する
・各科専属の診療アシスタントを活用する
・看護師への指示体系を転換する
・研究業務の補助としてデータマネージャーを雇用する

 中でも「診療アシスタントの活躍が業務時間の短縮につながっている」と同氏。「紹介状を基にした初診患者のカルテ記載および紹介元への返信作成代行の他、喘息コントロールテスト(ACT)や間質性肺炎の問診票記載補助もお願いしていく。患者の拾い上げという意味でも意義はあるのではないか」と説明した。

時間的制約から"無難な処方"へ流れてしまう傾向に

 一方で、タスクシフト/シェアはメリットばかりではない。特に大きな課題として中原氏は、働き方改革の影響で患者への説明が時間的な制約を受けている点を挙げた。「治療選択肢が増え、本来であれば各薬剤の特徴、副作用など細かな点まで時間をかけて説明が必要であるのだが、若手医師などはどうしても無難な処方に流れる傾向がある。例えば進行非小細胞肺がん上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性例の一次治療であれば、ラムシルマブ+エルロチニブ(RELAY試験)やオシメルチニブ+化学療法(FLAURA2試験)などの選択肢も承認されているが、説明や通院の手間からオシメルチニブ単剤療法が選択されがちだ。新薬についても書類作成の手間などから、既存薬を優先しやすくなっている」と話した。

 そこで、医師としては時間的な制約の中で効率よく薬剤の最新情報を入手できることが重要となる。同氏は「製薬企業との面談は30分以内が望ましい。資料は自社製品のデータを示すだけでなく、他社製品との違いが分かるようなものが理想だ。また、どの対象に対してその薬剤のベネフィットが大きいのかといった内容や他施設での処方状況、副作用の情報などもしっかりと伝えてほしい。ガイドラインの抜粋や、KOLの意見などが分かると実臨床に生かしやすい」と説明。近年、ガイドラインの検索などができるスマホアプリはあるが、紙資材について「ウェブ検索などの手間が省け、取り出しやすさなど利便性が高く有用だ」と述べた。

 また「私自身も含め、専門領域以外の最新情報が不足している医師は多い。基本的な内容から疾患全体を俯瞰するようなウェブセミナー・講演会に対するニーズはあるはずだ。短時間かつオンデマンドの特性を生かし、倍速視聴や追いかけ再生に対応しているとありがたい」と述べ、製薬企業への協力を求めた。

(編集部・小暮秀和)