GLP-1受容体作動薬セマグルチド(商品名ウゴービ)とGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(ゼップバウンド)の登場は、肥満症治療に変革をもたらした。米・Yale School of MedicineのChungsoo Kim氏らは、2億7,700万件の患者記録を網羅する全米の電子カルテレポジトリEpic Cosmos Datasetのデータを用いて、米国成人の肥満治療における両薬の処方状況、患者の特徴、属性による格差などについて分析した結果をJAMA2025年4月29日オンライン版)のResearch Letterに報告した(関連記事「ウゴービ、2型糖尿病の肥満HFpEF例にも著効」「〔ACC.25速報〕ゼップバウンド、CKDの有無を問わず肥満HFpEFに有効」)。

編集部注:記事中のセマグルチドはウゴービ、チルゼパチドはゼップバウンドを指す

2020年7月~24年10月の登録例が対象

 米食品医薬品局(FDA)は、2021年6月にセマグルチドを、2023年11月にはチルゼパチドを肥満症治療薬として承認しており、日本でもそれぞれ昨年(2024年)2月と今年4月に肥満症治療薬として発売された(関連記事「承認から11カ月、ついに抗肥満薬ウゴービ発売」「肥満症治療薬チルゼパチドが薬価収載、4月11日発売」)。

 またFDAは、昨年3月にセマグルチドについて心血管疾患(CVD)の既往を有する過体重または肥満の成人における心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の主要心血管イベント(MACE)のリスク低減に対する適応拡大、今年1月にはチルゼパチドについて肥満症のある成人の中等度から重度の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)に対する適応拡大を承認するなど、両薬の臨床導入が進んでいる(関連記事「GLP-1作動薬ウゴービ、FDAがMACEリスク低減での適応拡大を承認」「チルゼパチド、FDAが肥満症のある中等度~重度の閉塞性睡眠時無呼吸で承認」)。

 こうした背景の下、Kim氏らは米国の肥満症治療をにおけるセマグルチドおよびチルゼパチドの処方状況などを検討する目的で、今回の研究を実施した。Epic Cosmos Dataset に2020年7月~24年10月に登録されたBMI 30以上、または肥満関連合併症を1つ以上有するBMI 27以上の成人を抽出し、人口統計学的特性および社会経済学的特性と処方との交互作用について、全体集団と両薬が処方された集団で比較。なお糖尿病治療薬としての処方例は除外した。

女性、白人、大都市圏居住者などで処方率高い

 解析対象は3,906万622例で、うち88万7,110例(2.3%)がセマグルチドまたはチルゼパチドを処方されていた()。全体と比べ、処方例は若く(平均年齢51.9歳 vs. 47.3歳、差-4.61歳、95%CI -4.63~-4.59歳)、BMIが高値だった(34.3 vs. 39.0、差4.84、同4.82~4.85、全てP<0.001)。両薬処方前12カ月間の受診回数の中央値は5.0回(四分位範囲3.0~9.0回)だった。

表. 人口統計学的特性および社会経済学的特性

 サブグルーブ別に見ると、女性よりも男性は両薬の処方を受ける割合が低かった〔3.0% vs. 1.2%、オッズ比(OR)0.397、95%CI 0.395~0.399〕。非ヒスパニック系白人(2.4%)を参照とした場合、ヒスパニック(1.8%、同0.758、0.752~0.764)、非ヒスパニック系アジア人(1.7%、同0.729、0.717~0.742)、非ヒスパニック系黒人(2.3%、同0.951、0.946~0.956)は処方割合が低かった。同様に社会的脆弱性が低い患者と比べ、最も社会的に脆弱な患者は処方割合が低く(2.6% vs. 1.9%、同0.740、0.736~0.745)、大都市圏居住者よりも農村部居住者は処方割合が低かった(2.45% vs 1.5%、同0.633、0.623~0.642)。

 研究期間中に累積処方率は全てのサブグループで上昇したものの、群間の格差は持続した。ロジスティック回帰分析の結果、大都市圏居住者および社会的脆弱性指数(SVI)の第1四分位群(最も社会的脆弱性が低い)で最も顕著な上昇が観察された(全て交互作用のP<0.001、)。

図. 肥満に対するセマグルチドおよびチルゼパチドの処方率

(表、図ともJAMA 2025年4月29日オンライン版)

医師要件の厳しさ、保険適用範囲の狭さも影響か

 以上から、Kim氏らは「2021~24年にセマグルチドおよびチルゼパチドの処方数はわずかに増加したが、全体では3.0%といまだ限定的だった。また人種・民族、社会的脆弱性、都市規模に基づく大小さまざまな処方格差が見られたが、絶対差は全体的な使用不足に比べれば小さかった」と結論。「処方率の低さおよび処方における格差は、システムレベルのアクセス障壁と患者レベルの需要の両方を反映している可能性が高い。これには、医師要件の厳しさ、保険適用範囲の狭さ、処方後に治療を見送る患者もいるように経済的配慮などが含まれる。今回の知見は、エビデンス、政策、保険償還の状況が変化する現状を踏まえつつ処方パターンの変化を監視し、両薬による肥満症治療への公平なアクセスを確保するための戦略の必要性を強調するものだ」と付言している。

編集部・関根雄人