Dr.純子のメディカルサロン

それでも自分らしく生きる
~肺がん治療しながら現役プロ選手~ 湘南ベルマーレフットサルクラブ・久光重貴さん

 ◇「それでも自分らしく」を伝える

 海原 肺がんはとても大変な病気というイメージがありますね。治療は非常に進歩しているのに。デスクワークでも難しいかもしれないと思い、不安になる方もいるでしょう。だからこそ、久光さんが治療を受けながら、スポーツのプロとして活動することに意味がありますよね。

 久光 がんになったら終わり、というイメージを持って最初に治療に入るのではなく、それでも自分らしい生き方ができると思えたら、気持ちが全然違うと思います。

病院で子どもたちとスキンシップ

病院で子どもたちとスキンシップ

 治療を続けながら、自分らしく生きることができると伝えたい。それが自分にできることだと思います。

 海原 今はどんな治療ですか。

 久光 毎日の服薬です。

 海原 身体がだるいなどの副作用はありますか。

 久光 今の薬の「タグリッソ」はだるくなりません。薬によって、かなり違います。点滴にすると、2~3週間だるくなるので、トレーニングはきついですが、服薬は大丈夫です。

 ただ、薬により、副作用が微妙に違います。今服用している薬は、私の場合、豚肉を食べると下痢をするとか。その薬によって違うので、体調に細かく気を配りながら、食べ物などを変えたりしています。

 ◇がんだから苦しいわけじゃない

 海原 いつもお聞きしたいと思っていたのですが、骨髄炎で大変な思いをして復帰して、また肺がん。それも31歳で。どうして、こんな目に遭うのかと思いませんでしたか。

 久光 それは考え方を変えると、がんでなくてもつらいことがあるし。がんだからつらいわけでもないし。誰でも、みんなそれぞれつらいし、と思うので。

 人は生きていれば、それぞれみんな大変だから。がんだから苦しいわけじゃないと思っています。

 海原 素晴らしいですね。そして強いですね。でも疲れませんか。弱音を吐けないし。

 久光 まあ、弱音を吐きたくなるときもありますけど。でも、自分は好きなフットサルをやってきて、そんな自分の役目は何だろうと思うと、自分ができることは、こうして治療を続けながら、選手を続けることだと思うんです。

 人はそれぞれ自分しかできない役目があるし、自分はこうして生きることかな、と。

治療を受けている子どもと病院でボール遊び

治療を受けている子どもと病院でボール遊び


 ◇笑顔の波を広げる

 海原 子どもたちの支援活動もなさってますね。

 久光 フットサルリボンといって、病院の中で、治療を受けている子どもとボール遊びをする活動をしています。

 子どもたちが笑顔になる。するとお父さん、お母さんが笑顔になるんです。子どもさんの写真を撮って、笑い合って。

 病院の看護師さんたちが「あ、あのお母さんがはしゃいでるのを初めて見ました」とか、「あのお父さんの笑顔を初めて見ました」と言ってくれるんです。笑顔の連鎖ですね。

 病院の外の世界では、当たり前のように子どもの笑顔や遊びがある。それなのに、病院の中は別の世界です。

 昨年から、こども医療センターの体育館で月に3回、フットサル教室も始めました。

 病気で治療している子どもは、フットサルをしたくても、クラブに入れてもらえないんです。体調の管理ができないという理由で。

 それに、副作用で外見に変化が出て、いじめられるようなこともあり、不安ということもあるんです。

 そうした子どもたちを集めて、フットサルをしてるんです。その子たちが育った時、またそういう活動をして、次の世代の子どもを支援してほしいという思いです。

 海原 子どもたちが、治療の副作用で外見に変化が出て、いじめられるようなこともあるんですね。

 久光 そうなんです。治療を受けて、見た目が変化した子どもに強くなれと言うだけでなく、それも大事だけど、健康でスポーツをやっている子どもたちに、病気で治療を受けている子どもが入ってきたとき、どのように接するかを伝えることをしなければならないと思うんです。

 命の授業というか、そういうことです。それは、自分がスポーツを目指す子どもたちに伝えなければと思います。

 取材後記:お会いした瞬間、久光さんから、温かいエネルギーがあふれているのを感じました。あすはどうなるか分からないから、という言葉をごく普通に発して語ったお話は、心にしみました。人をうらやましがらず、人と比較せず、自分だけができることを続けながら、人のためになるという人生を見つけた方の純粋な笑顔が素晴らしく、お話を聞きながら、元気をいただきました。

(文 海原純子)

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