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遠隔医療システムを独自開発
海外にも提携拡大-旭川医科大学

 ◇定員の半分を地域枠に

 旭川医大が求める学生像は「一定の学力と情熱のある人」。

 「入学試験の成績が良くても国家試験に合格するとは限らない。中高6年間、医学部入学のために勉強して、周囲から頭がいいと言われても、医学部に入ってからの6年間で勉強しなければ、全然ダメなんです」

旭川医科大学

旭川医科大学

 地元定着率を高めるため、地域枠を定員の半分まで増やした。さらに、「推薦入試道北・道東特別選抜」「AO入試北海道特別選抜」のほか、昨年度から「AO入試国際医療人特別選抜」を開始した。「AO入試国際医療人特別選抜では、国際的に活躍できる将来性のある学生を募集しています。かなり狭き門で、5人の枠に昨年は2人、今年は4人を厳選しました」

 教育カリキュラムは、国際化に対応し、医学教育分野別認証評価に沿った内容に一新。入試から教育、卒後研修に至るまで一貫したシステムで管理している。

 「どんな学生を入学させると国家試験に合格するのか、卒後も地域医療に携わってくれるのかを、きちんと把握して分析しています。どのプロセスにも医師が関与し、臨床経験が豊富でリサーチマインドのある医育統合センターの教授が全体を束ねている点が特徴です」

 卒後初期研修のマッチングの結果、115人中40人が旭川医大で研修を受けた。卒業後の地元定着率は約6割に上る。

 ◇米国留学で先を読む経験

 吉田学長は札幌出身。父親の転勤で北海道内の過疎地を転々としたが、「子どもの頃を思い出すたびに、病院までの遠い道のりが記憶によみがえります」。幼少の頃から病弱で病院にかかるのに苦労した。

 渡辺淳一の『無影灯』を原作にしたテレビドラマの影響で、消化器外科医を目指し、旭川医大に入学。入学後に見た顕微鏡手術に憧れて進路を変更し、眼科に入局した。

インタビューに応える吉田晃敏学長

インタビューに応える吉田晃敏学長

 1980~83年までハーバード大学医学部眼科に留学。外国人として働く中で、さまざまなことを学んだ。「やはり人種差別のようなこともあって、そう簡単にはいいポジションにはつけない。待つこと、耐えることを学びました」

 ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学との共同研究では、目の血管の状態を観察する血流計(レーザードップラ)を開発、特許を取得した。

 ◇「目は体の窓」

 「目の血管の状態を診ることによって、全身の血管の状態が分かる。今でいう橋渡し研究(基礎研究の成果を臨床研究を経て実用化へつなぐ研究)です。シェークスピアは『目は心の窓』と言いましたが、僕は『目は体の窓』だと思います」。血流計はキャノンとの共同研究で製品化され、眼科のみならずあらゆる診療科で使われるようになった。

 「研究を通して、いかに新しいことを見いだすのが大変であるかを学びました。一緒に研究した彼らの目線は来年のことではなく10年後を見据えていた。常に先の先を見越して行動することが大切だと実感しました」

 旭川医大に戻ってからの遠隔医療への取り組みは国際ニュースでも取り上げられ、世界各国から連携のオファーが引きも切らない。2011年にはモバイル遠隔医療に対する産学官連携功労者として、ソフトバンクグループの孫正義取締役会長とともに文部科学大臣賞を受賞した。

 「私の夢は究極のへき地である宇宙基地との遠隔医療を実現することです。スペースシャトルとの間で電子カルテを伝送し、遠隔医療を行う日は近いと思っています」

 ◇決断なくして前進なし

 吉田学長の座右の銘は「出るくいは打たれる。でも抜かれなければいい」。新しいことに挑戦しようとすれば、さまざまな障壁が立ちはだかる。それらを一つひとつ乗り越え、日本初、世界初を実現してきた吉田学長が、これからの学生に伝えたいのは、「決断なくして前進なし」という一言。「あれこれぐちゃぐちゃ言わずに、スポーツやるならやる。勉強するならやる。どんなことをするのでも、何か決めないと先に進めませんから」

 旭川医大が目指すのは、ローカルなニーズに対応しつつ、グローバルに行動できる医療人の育成。地域医療の原点に立ちながら、最先端医学・医療が行われる環境で学べる6年間は、学生たちにとってかけがえのない時間になるに違いない。(医療ジャーナリスト・中山あゆみ)

【旭川医科大学 沿革】
1973年 旭川医科大学設置
  76年 医学部付属病院開院
  94年 旭川医大と余市協会病院の間で初の遠隔医療を実施
  96年 旭川医大とハーバード大学スケペンス眼研究所との間で世界初の国際遠隔医療が本格稼働
  98年 中国・南京中医薬大学眼科との間で遠隔医療を開始
  99年 国内初の遠隔医療センターが完成
2004年 国立大学法人旭川医科大学発足

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