自宅や職場で行える腹膜透析
専門家・施設不足で普及に課題
末期の腎不全になると、血液を人工的に浄化する透析治療が必要になる。腹膜透析は、広く行われている血液透析よりも生活上の制限が少なく、患者にとって利点が大きいとされるが、認知度が低いため、受けている人は透析患者全体の3%弱にすぎない。日本大学医学部付属板橋病院(東京都板橋区)腎臓・高血圧・内分泌内科の阿部雅紀部長(主任教授)は「透析導入時には、医師が全ての選択肢に関する情報を患者に提供することが重要。腹膜透析を選べる環境づくりが必要だ」と強調する。
▽不十分な情報提供
腎臓病は、初期には目立った自覚症状はないが、腎臓の働きが徐々に低下し末期の腎不全に至ると、血液中の老廃物や余分な水分を除去するための人工透析が必要となる。人工透析には、医療機関で機械を用いて血液を浄化する血液透析と、透析液を出し入れする管を腹部に埋め込み、自身の腹膜機能を利用して血液を浄化する腹膜透析がある。
フスタイルに合った治療を。腹膜透析は選択肢の一つ
日本の透析患者は約33万人で、その97%強が血液透析、3%弱が腹膜透析である。腹膜透析が非常に少ない理由として阿部部長は、医師から腹膜透析について十分な情報提供がなされていないことや、腹膜透析を熟知している医師や看護師が少なく、実施可能な施設も少ないことを挙げる。
▽国が普及を推進
腹膜透析は、週3回(1回3~5時間)の通院が必要な血液透析に比べて、自宅や職場で行える点で患者の満足度が高いという。連続携行式腹膜透析(CAPD)では、腹部に挿入したカテーテルという管を介して自身で透析液を1日4回程度注入・交換する。就寝中に機械で透析液を交換する自動腹膜透析(APD)もある。操作は簡単で、専用の機械が自動で注液、排液する。日中の時間が自由に使えるので、就労や就学に適していて、通院はいずれも月1、2回で済む。
長期に腹膜透析を行うと腹膜が劣化するため、一定の継続期間後は血液透析への切り替えが必要となるものの、「高齢者の場合、70歳くらいから腹膜透析を導入すれば、血液透析に移行せずに生涯を全うできるだろう」と阿部部長。
国も腹膜透析の普及を推進するため、2018年度の診療報酬改定で加算などの措置を取った。阿部部長は「透析治療を導入する時点で腹膜透析という選択肢が加わることで、患者のライフスタイルを考慮した治療が可能となります。患者に最適な透析療法を選択できるような環境づくりが大切です」と話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/07/28 16:50)