腎がん薬物療法が10年ぶり進歩
免疫療法薬の併用療法で
血液をろ過して尿を作る腎臓に発生する腎がん(腎細胞がん)。周囲の臓器に広がる、離れた臓器に転移するなど進行した場合、5年生存率は20%弱まで低下する。2018年に2種類の免疫療法薬を併用する新たな治療法が承認され、従来の薬物療法より生存期間の延長が目指せるようになった。慶応大学病院(東京都新宿区)泌尿器科の大家基嗣教授に聞いた。
▽2種類の免疫療法薬で効果
腎がんは近年、患者数が増加しており、大家教授によると、がん患者全体の2~3%を占めるという。70~80%は無症状で発見される早期がんで、治療の基本は手術である。腎臓を全て、または部分切除することで治癒が期待できるが、転移がある人や合併症などのため手術できない人には薬物療法が行われる。
代表的な薬剤には、スニチニブという飲み薬がある。がん細胞が酸素や栄養を取り込むための血管を作るのを妨げる作用があり、08年から使われている。18年には、ニボルマブとイピリムマブという2種類のがん免疫療法薬を併用する治療法が、腎がんで承認された。それまでは有効性でスニチニブを上回る薬はなかったが、臨床試験でがんが進行した患者に最初の治療で用いると、スニチニブより優れた効果を示した。
人体には外敵から体を守る免疫の仕組みがあり、がん細胞を外敵と認識して攻撃する。ところが一部のがん細胞は、免疫の仕組みにブレーキをかけて攻撃を免れ、増殖している。免疫療法薬はこのブレーキを解除し、免疫の働きを利用してがんを攻撃させる治療法だ。
▽治癒する可能性も
臨床試験開始から18カ月後の生存率を見ると、免疫療法薬の併用療法を受けた患者は75%、スニチニブを内服した患者は60%と、併用療法群の方が長期間生存していた。注目されるのは、併用療法群の9%でがんが消失したことで、大家教授は「10人に1人は治癒する可能性がある」と期待を示す。
一方、併用療法の副作用として、「肝機能障害、甲状腺などホルモンを分泌する臓器の機能障害、大腸炎などの恐れがあります」と指摘する。
この併用療法は、進行した腎がんの中でも、がんの悪性度が比較的高い人が対象となる。見方を変えれば、免疫療法薬の併用によって、進行がんの患者でもがんの消失が期待できることになり、インパクトは大きい。現在、免疫療法薬の効果をさらに向上させる研究も進められているという。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/08/15 07:00)