医学部・学会情報

SGLT2阻害薬が糖尿病性腎臓病を抑制する機序を解明 ~『Cardiovascular Diabetology』に掲載~

(文献1)
Low transition rate from normo- and low microalbuminuria to proteinuria in Japanese type 2 diabetic individuals: the Japan Diabetes Complications Study (JDCS)
Katayama S, Moriya T, Tanaka S, Tanaka S, Yajima Y, Sone H, Iimuro S, Ohashi Y, Akanuma Y, Yamada N; Japan Diabetes Complications Study Group
Diabetologia, 54: 1025-1031, 2011

(文献2)
Reduction in microalbuminuria as an integrated indicator for renal and cardiovascular risk reduction in patients with type 2 diabetes
Araki S, Haneda M, Koya D, Hidaka H, Sugimoto T, Isono M, Isshiki K, Chin-Kanasaki M, Uzu T, Kashiwagi A
Diabetes, 56: 1727-1730, 2007

(文献3)
Dapagliflozin and cardiovascular outcomes in type 2 diabetes
Wiviott SD, Raz I, Bonaca MP, Mosenzon O, Kato ET, Cahn A, Silverman MG, Zelniker TA, Kuder JF, Murphy SA, Bhatt DL, Leiter LA, McGuire DK, Wilding JPH, Ruff CT, Gause-Nilsson IAM, Fredriksson M, Johansson PA, Langkilde AM, Sabatine MS; DECLARE?TIMI 58 Investigators.
N Engl J Med, 380: 347-357, 2019

用語説明
*1 SGLT2阻害薬について
SGLT2阻害薬は、SGLT2の機能を阻害する薬物で糖尿病治療薬の一つ。SGLTとは、sodium-glucose cotransporterの略で、「ナトリウム・グルコース共役輸送体」と呼ばれるタンパク質の一種のことです。SGLTは、体内でグルコース(ブドウ糖)やナトリウムを細胞内に取り込む役割を担っています。SGLTの種類はいろいろあり、体内のさまざまな場所に存在していますが、SGLT2は、腎臓の近位尿細管という場所に限定的に存在しているのが特徴で、腎臓でグルコースを栄養分として体内に取り込む働きを持ち、尿糖の排泄をしません。そのため、腎臓の近位尿細管に存在するSGLT2は糖尿病下の高血糖症状において、尿糖の排泄を阻害し、高血糖をさらに増悪させるという悪循環をもたらす状態となっています。そのため、SGLT2阻害薬は尿糖の排泄を促進して高血糖を是正することにより糖尿病治療効果を発揮します。

*2 アルブミン尿について
糖尿病性腎臓病の診断評価のために重要な尿検査値の一つ。血液中のタンパク質であるアルブミンが、腎臓の機能が弱まって老廃物のろ過機能が低下すると尿中に検出されるため、尿中のアルブミン量を調べることで腎臓の状態が分かります。近年、アルブミン尿を呈する患者に糖尿病性腎臓病の進行リスクが非常に高いことが報告されたため、重要指標になっています。

*3 糖尿病性腎臓病について
 糖尿病の腎臓合併症である糖尿病性腎臓病は、長期にわたる糖尿病罹患ののちに尿中アルブミン排泄増加で発症しますが、特に自覚症状がないのが特徴の一つです。自覚症状のないまま進行し、慢性腎臓病から透析治療や腎移植が必要な末期腎不全へと進展した時点で初めて、全身倦怠感や食欲低下などの自覚症状が現れることも珍しくありません。そのため、末期腎不全の原因として糖尿病性腎臓病は現在最も多く、透析治療の原因の約39%を占めるとされています。このように典型的な糖尿病性腎臓病の早期診断における尿アルブミン測定の臨床的意義は確立されています。
(日本腎臓学会編集、エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018;ttps://www.jsn.or.jp/guideline/guideline.php)

※本研究は、Cardiovascular Diabetologyに掲載されました。
Improved home BP profile with dapagliflozin is associated with amelioration of albuminuria in Japanese patients with diabetic nephropathy: the Yokohama add-on inhibitory efficacy of dapagliflozin on albuminuria in Japanese patients with type 2 diabetes study (Y-AIDA study)
Kinguchi et al. Cardiovasc Diabetol (2019) 18:110. https://doi.org/10.1186/s12933-019-0912-3

※本研究成果は、横浜市立大学初の契約型医師主導多施設共同介入研究として企業(アストラゼネカ株式会社、小野薬品工業株式会社)と締結された産学連携契約のもと資金提供を受け、横浜市立大学循環器・腎臓・高血圧内科学教室、横浜市立大学内分泌・糖尿病内科学教室、横浜市立大学臨床統計学教室、横浜市立大学附属病院次世代臨床研究センターとの共同研究体制により、横浜市立大学附属病院に加えて、横浜市立大学附属市民総合医療センター病院、済生会横浜市南部病院、横浜南共済病院とともに実施された「2型糖尿病におけるダパグリフロジンのアルブミン尿抑制効果に関する多施設共同試験:Yokohama Add-on Inhibitory efficacy of Dapagliflozin on Albuminuria in Japanese patients with type 2 diabetes study(Y-AIDA 研究); UMIN000018930」によるものです。

※横浜市立大学 循環器・腎臓・高血圧内科学教室では、日本学術振興会科学研究費、AMED革新的医療技術創出拠点プロジェクト/橋渡し研究戦略的推進プログラム、AMED循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業/腎疾患実用化研究事業、AMED難治性疾患実用化研究事業、ソルト・サイエンス研究財団医学プロジェクト研究助成、上原記念生命科学財団研究助成・研究奨励、かなえ医薬振興財団研究助成、公益信託循環器学研究振興基金研究助成、先進医薬研究振興財団循環医学分野若手研究者助成、MSD生命科学振興国際交流財団Banyu Foundation Research Grant、横浜総合医学振興財団推進研究助成・指定寄附研究助成、横浜市立大学かもめプロジェクトなどによる助成を受け、臓器間ネットワークの重要性を念頭におき包括的アプローチを介した病態連関制御による心血管腎臓病克服の実現のため、横浜発のエビデンス創出に向けて多面的に研究を推進しています。

                       〔企画制作・時事通信社総合メディア局〕


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