医学部・学会情報

SGLT2阻害薬が糖尿病性腎臓病を抑制する機序を解明 ~『Cardiovascular Diabetology』に掲載~

横浜市立大学 学術院医学群 循環器・腎臓・高血圧内科学 金口翔助教、涌井広道講師、田村功一主任教授、内分泌・糖尿病内科学 寺内康夫主任教授、臨床統計学 山中竹春主任教授ら研究グループは、横浜市立大学附属病院 次世代臨床研究センター(Y-NEXT)の支援を受け、多施設共同の契約型医師主導臨床介入研究を実施し、糖尿病治療薬SGLT2阻害薬*1が示す、2型糖尿病患者のアルブミン尿*2抑制効果には、朝の家庭血圧の降圧が重要であることを明らかにしました。

研究成果のポイント
○2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬の朝の家庭血圧改善効果が、糖尿病性腎臓病*3進行阻止の鍵となるアルブミン尿抑制効果に寄与することを示した
○機序に不明な点が多いSGLT2阻害薬について、最新の高血圧治療ガイドラインで最も重要とされる朝の家庭血圧の改善作用という、新たな臨床的作用機序のエビデンスを示した

研究の背景

2型糖尿病患者は国内外で増加傾向にあり、大きな問題となっています。その治療の目的は、血糖、血圧、血清脂質、体重などの管理で、合併症の発症や進行を阻止し、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL : quality of life)を維持し、寿命を全うすることとされています。治療はまず食事療法運動療法を中心に行われ、血糖値を良好にコントロールできない場合には薬物療法が行われます。

2型糖尿病の薬物療法は、経口血糖降下薬療法と注射薬療法に大別されます。経口血糖降下薬には従来からビグアナイド(BG)薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬、スルホニルウレア薬、DPP-4阻害薬があり、新しくはSGLT2阻害薬が開発され使われています。また、注射薬療法は従来のインスリン療法に加え、GLP-1受容体作動薬によるものも開発され使用されています。

一方、糖尿病の合併症の中でも腎臓合併症の糖尿病性腎臓病は、透析や移植が必要となる末期腎不全の原因の第一位となっています。また、心血管病合併のリスク増加もあるため、糖尿病性腎臓病の克服は重要な課題とされています。これまでの日本人2型糖尿病患者を対象とした大規模研究(JDCS研究)では、アルブミン尿高値、HbA1c高値、血圧高値、喫煙が腎症進展の危険因子となること、特にアルブミン尿を呈する患者では糖尿病性腎臓病が進行するリスクが8.45倍に上昇することが報告されています(文献1)。

アルブミン尿の影響は心血管病にも及びます。同様に日本人2型糖尿病患者を対象とした研究では、心血管病のリスクについて、アルブミン尿が改善した患者で75%低下したのに対して、悪化した患者では逆に約2.6倍に増加がみられています(文献2)。したがって、2型糖尿病におけるアルブミン尿は心血管腎臓病の源流として、重要な早期治療の標的に位置付けられています。


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