Dr.純子のメディカルサロン

気持ちよく、いきいきと働ける職場とは 島津明人・慶応大学総合政策学部教授

 職場のストレスが大きな問題になっています。対策が追い付いていないような印象を受ける職場が増えています。

 「健康経営」が叫ばれ、働き方改革と言われ、長時間労働を是正しようという動きはありますが、なかなか現場ではメンタル不調者が後を絶ちません。

 どうしたら、気持ちよく、いきいきと働ける職場をつくれるのか。「ワーク・エンゲイジメント(編注)」を専門とする慶応大学総合政策学部教授の島津明人先生に聞きました。

 (編注)「ワーク・エンゲイジメント」=仕事に向き合う心の在り方として、活力(就業中の高い水準のエネルギーや心理的回復力)、熱意(仕事への強い関与、仕事の有意味感や誇り)、没頭(仕事への集中と没頭)の三つがそろっているポジティブで充実した心理状態。メンタルヘルス対策の新しいテーマとして注目されている。

ストレスを抱える職場へは朝の通勤の足取りも自然と重くなる(写真はイメージです)

ストレスを抱える職場へは朝の通勤の足取りも自然と重くなる(写真はイメージです)


 ◇広がる「職場寒冷化」

 海原 気持ちよく働ける職場とは、どのようなものでしょうか。最近では、楽しく仕事をすることが非常に難しい印象さえありますが。

 島津 おっしゃるように、より短い時間と少ない人数で、より効率よく働くことが重視されるようになりました。

 そのため、時間的にも、気持ちの上でも、余裕がなく、ぎすぎすした雰囲気の職場に変化してしまうこともあります。経営学者の守島基博先生(学習院大学教授)はこのような状況を「職場寒冷化」と呼んでいます。

 子どもの育児、親の介護、慢性疾患を持ちながらの就業など、必ずしも仕事に100%、時間とエネルギーを集中できない社員が増えてきました。

 このような時こそ、私たち日本人が持っている、思いやりの心、相手を尊重する心が大事になってきます。

 つまり、利己的な行動ではなく、利他的な行動を尊重し、「お互いさま」という互恵性が保証される職場づくりが大切になっていると思います。

 ◇「負担の集中」と「退屈症候群」

 海原 職場によっては、過剰な仕事量でやる気をなくしている社員も多い感じがします。人手不足や利益追求によって、1人にかかる仕事の負担が多くなる場合、どうしたら、熱意を持って、いきいきと働ける状態にできるでしょうか。

図1

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 島津 多くの職場では、熱意のある社員に業務負担が集中し、燃え尽きてしまう現象が起きています。その結果、その社員は離職し、その穴を埋めるために新しい社員を採用するものの、やはり過剰な業務負担から燃え尽き、離職を繰り返すといった悪循環が生じています。

 一方で、ボアアウト(退屈症候群)という現象も起きています。一部の熱意のある有能な社員に仕事が集中するあまり、それ以外の社員には業務が割り当てられず、退屈な時間が増え、成長の機会が失われ、動機づけが低下するといった現象です。

 このような現象から分かるのは、職場のさまざまな業務に、熱意のある一部の社員だけに対応を委ねることの限界と危険性です。

 海原 会社としても問題なわけですね。

 島津 誰に、どんな仕事を、どのように配分するかは、まさに経営課題です。どんなに熱意のある従業員であっても、生身の人間です。短期的には業績が上がっても、長期的には疲弊してしまい、やはり業績は低下します。

 生産性を高めながらも、健康にも配慮する、働く人々の健康と幸せに配慮した「人を大切にする経営」ができるかどうかが、経営層に試されていると言ってもよいでしょう。


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