治療・予防

コロナでもう一つの「医療崩壊」 
悩むクリニックの現場

 外出自粛や休業要請などを緩和する動きが広がる中で、新型コロナウイルスの感染に直面する医療現場の苦闘は続く。感染症患者を医療機関が受け入れきれなくなる「医療崩壊」が危惧されてきたが、長期化するにつれて他の疾患についても、感染拡大を警戒されて必要な治療を受けられない患者が出てくることが懸念されている。関東のクリニックや大学病院の関係者に実情を聞いた。

院内感染を防ぐために患者が乗ってきた自動車の中で診療することも=川越耳科学クリニック提供

院内感染を防ぐために患者が乗ってきた自動車の中で診療することも=川越耳科学クリニック提供

 ◇車の中で患者に対応

 埼玉県川越市・川越駅前の高層住宅を兼ねた商業ビル。複数の診療科のクリニックが集まる医療モールでは入り口前に独自の受付を開設し、来院者への検温や発熱などの異常があった場合は一括して対応する体制を取っている。

 このモールは耳鼻咽喉科や整形外科、眼科などのクリニックと調剤薬局が入居しているが、内科や小児科を標榜したクリニックはない。それでも腰痛や緑内障などで継続的に通院している患者が体調不調を訴えたり、急性の病気などで飛び込んできたりする子どもの患者らも少なくない。

 このような患者への初期対応を引き受けているのが、前目白大教授で同モール内の「川越耳科学クリニック」の坂田英明院長だ。坂田院長は「慢性のめまいなど耳の疾患の場合は症状も安定していることが多いので、遠隔診療や処方箋の郵送などにより、来院しなくても対応できることがある。しかし、小児の急性中耳炎など発熱や痛みが急に出る病気のような場合は、どうしても実際に医師が診察する必要がある」と強調する。

川越耳科学クリニックの坂田英明院長

川越耳科学クリニックの坂田英明院長

 発熱などの症状があり新型コロナウイルス感染が疑われる場合は、高機能マスクや防護服、ゴーグルなどを身に着けた坂田院長が、モールの外で患者が乗ってきた車に乗り込んで診療することもある。「車の中での診療は動きが制約されて難しいが、院内感染などのリスクを抑えられるメリットにはかえられない」と坂田院長は話す。

 ◇クリニックをたらい回しに

 診察の結果、新型コロナウイルス感染の疑いが晴れれば、耳鼻科の担当する病気なら治療に入って必要な投薬をする。他のクリニックの受診者なら本来のクリニックに行ってもらう、という。もし感染が疑われる場合は保健所に連絡するか、必要ならPCR検査の検体を坂田院長自身で採取して保健所に検査を依頼することもあるという。

 「十分な感染防御ができていないクリニックは、院内感染の危険もあるので発熱などの症状がある患者をなかなか受け入れられない。その結果、治療を受けることができずに複数のクリニックをたらい回しになった患者も少なくない。発熱や喉の痛みなど新型コロナウイルスの主な自覚症状は、呼吸器以外の多くの病気にも当てはまる。どこに行けば診てもらえるか、あるいは新型コロナウイルスでないことを確かめてもらえるかが重要な情報になってくる」と坂田院長は指摘している。

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