医学生のフィールド

産婦人科医とみー先生から学ぶ“キャリアデザインの心得” 〜自分を信じ、志を持って挑戦すれば、何をするのにも遅いことはない〜

 9月26日、学生団体メドキャリ主催のオンラインキャリア講演会に、医学博士課程に在籍しながら研究機関で人工知能の研究開発に取り組む、「産婦人科医とみー先生(以下とみー先生)」を講師としてお招きしました。講演では、とみー先生のキャリアについての考え方、研究内容、プログラミング学習についてお話しいただきました。(文:筑波大学医学部5年 品川司磨)

集合写真

 ◇医学生、医師へ向けた学習のすすめ

 とみー先生は最初に自身の学生時代を振り返り、現役医学生に向けて、英語や第3言語の学習、プログラミングの学習、疫学や統計学の学習、さまざまな勉強会や学内の研究室への参加の意義についてご自身の経験を交えて紹介されました。プログラミングに関しては、統計学と合わせて解析手法を身に付けることが臨床現場でも基礎研究を始めてからも非常に役に立つとのことです。プログラミング学習において重要な考え方は、「エラー解決」、「成果物の作成」、「勉強会」、「効率化の過程」、「チーム開発」の五つを楽しむことで、「特に大事なのはチャレンジ精神であり、何を始めるのにも遅いということはない」と強調されていたのが印象に残りました。実際に先生がプログラミングやAI、疫学などの知識を本格的に学び始めたのは、臨床医になってからだそうです。

 医師は多忙な職業であり、医療以外の知識を学ぶのは時間的にも難しいイメージがありましたが、強い意志と目標があれば医師になってからでもキャリアの選択の幅が広げられるというとみー先生の言葉は、将来像を設計する上で大きな励みとなりました。

 ◇自分のアイデンティティーを生かした仕事に就くために

 とみー先生がキャリアを決める上で大事にしてきたことは、「迷ったときは(自分が打ち込める分野の中で)マイノリティーになれる方を選択する」という考え方です。先生は完全腹腔(ふくくう)鏡下手術を学ぶために、指導体制が充実していて研修医のうちから多くの症例を経験できる、外科の後期レジデントが少ない病院を選択しました。研修中は他科の手術にも積極的に足を運んで見学し、そこで出会った産婦人科の上級医の影響で未開拓分野の腹腔鏡手術に興味を持たれたそうです。当時、訴訟問題や多忙などの理由で産婦人科を選ぶ研修医は少数でした。そのような状況を踏まえて、先生はもともと腫瘍分野の腹腔鏡手術への興味を抱いていたことに加え、みんながやりたがらないマイナーな分野である事も理由として、産婦人科に進路を決めたそうです。

 専修医時代、とみー先生はいわゆる野戦病院を中心に勤務先を選ばれました。初めのうちは上長の執刀する手術やデモテープから技術を学び、模型を活用して練習を繰り返し行い手技を磨いたそうです。指導医の手術のデモテープのDVDは擦り切れるほど見てイメージトレーニングを行っていたそうです。「24時間365日、腹腔鏡のことを考えていた」というほど没頭し、実際の患者さんに手術をすると模型の手術の方が難しいと感じるほど上達したそうです。「大事なことは、執刀した手術の数ではなく、それまでの練習やイメージトレーニングといった準備である。」と強調され、そして参加者に対して「研修医、専修医の頃から英語論文を読み、知見を蓄え、その施設で行われている治療方針に対して常に疑問を持ってほしい」と助言されました。

 その後、大学病院では、教授やその他の医療スタッフと専修医や研修医の若い先生との間を折衝する、中間管理職のポジションに就きます。そこで臨床試験・治験の把握や全カンファレンスの準備、看護部や薬剤師との交渉、病棟に入院している全患者さんの把握、難易度の高い手術(高度先進医療)の術前の準備や助手などといった、多種多様な仕事をこなせるようになったと言います。一見雑務と思われる仕事をこなす中で、臨床研究における手薄な点や臨床現場の問題点を把握することができたというこの期間の経験が、今の研究にも役立っているそうです。

 主体的にさまざまな仕事に飛び込むことによって、自分の成長の角度が高まるということを教わりました。

 ◇研究への思いと人とのつながり

 腹腔鏡手術を極めることを目標に修練を重ねてきたとみー先生。大学院で研究の専門分野を決める際、それは手段の一つであるべきで、本来の目的はあくまで「患者さんの治療や生活の向上であるべきだ」と気づきます。「腹腔鏡に限らず、これまで先人が築いてきた研究分野を学びつつ、自分が新たな分野を切り開けないか」こういった心境の変化の中で、未開拓である人工知能を研究分野として新たに挑戦する決意を固めたのです。

 その後、日本AI学会の資料から、都内の研究所で人工知能の研究者を探し出し、直接足を運び、在籍する許可を得られたそうです。「熱い思いを訴えれば、相手にはおのずと伝わる」、そして「人とのつながりが自分を良い方向に導いてくれた」と、人との出会いやつながりを大切にすることで道が開けるとお話しされました。

 とみー先生のキャリア選択は「人がやらないことに挑戦する」といった姿勢を貫いています。「自分の将来像に合った選択は自分で考えていくことが大事だ」と強調されていたように、キャリア形成は人のまねをしたからとうまくいくものではありません。人がやりたがらないことや、やらないことに挑戦していくことが新たな道や発見を生むこともあると教えられました。

 ◇医療とAI開発の現状と課題

 2013年より、AIとヘルスケアのスタートアップに向けて巨額な投資が始まりました。健康維持、病気の予防、治療、回復・リハビリ、これらすべての領域にAIやICTが次々と導入されています。日本メディカルAI学会の見解によると、これからは「医師がAIを使いこなす時代」とされています。現在、新生物、神経系疾患、心血管疾患などを対象とした画像診断支援に加え、自然言語処理などの基礎研究においてAIの導入が増加傾向です。

 講演では、AIを活用した病気の診断に関する、とみー先生の研究やその他の応用事例なども紹介されました。さまざまな研究が行われる一方で、課題も多く存在します。具体的には、AIによる画像診断を行う際のラベル付け作業の人員不足、研究予算の不足、個人情報の問題、AIに関する患者の理解が得にくいことなど、実際の臨床応用にはまだまだ時間を要するとのことでした。

 講演の最後に「学生時代からプログラミング学習をぜひ楽しんでほしい。そして先人が培ってきた正道というものを学びつつ、後に自分に特化した分野を見つけ、注力してほしい」と訴えかけました。誰も知らない未開拓分野を学ぶためには、既存の分野を十分に理解することが近道であるという意味合いも含まれていて、まさに「温故知新」。プログラミング学習に限らず、その他の学習に関しても、より深く学ぶことでキャリアの可能性を広げられるのだと改めて考えさせられました。

 「臨床医になってから、基礎からプログラミングの学習をし、得た知識をブログでアウトプットしています。

 ・Python入門者のための学習ロードマップ

 ・Python初心者のための機械学習に向けたロードマップ

 これらの教材は無料かつ系統立てて学習できる様に工夫していますので、興味のある方はぜひ参考にしていただければと思います。また臨床研究に最低限必要な統計やRについても目下執筆中です。」(とみー先生)

 ◆産婦人科医とみー先生
 産婦人科専門医、医学博士課程在籍中、都内研究機関で人工知能の研究中。2019年6月よりプログラミングを習得し、そのノウハウをTwitterやブログ「Tommy blog」にて発信している。そのかたわら、Python、R、統計解析についての学習記事、データ解析依頼の対応などマルチに活躍。みんパピの運営メンバーでもあり。HPVワクチンの啓発活動なども行っている。


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