教えて!けいゆう先生

動画で医療情報、もう一つの落とし穴
サイバーカスケードに注意 外科医・山本健人

 以前の記事「増えている動画検索 医療情報収集ではご注意を!」で紹介したように、近年、ユーチューブを使った動画検索が増えています。しかし、現状では、科学的根拠に基づく医療系の日本語動画は多くありません。今はまだ、学会や公的機関のウェブサイトからテキスト情報を収集する方が無難です。

 さて、動画での情報収集には、もう一つの落とし穴があります。

関連動画で偏った内容のものばかりを見ていくと、思考が偏ってしまいがち。広い視野で検索してみよう【時事通信社】


 ◆注意すべき関連動画

 以前の記事でも書いたように、私はユーチューブで医療に関するスライド講義をアップロードしています。小さなチャンネルですが、それでも1年で70万回以上は動画が閲覧され、医療への関心の高さを反映しているようです。

 実は、このアクセスデータを見ると、興味深い現象に気付きます。私の動画へのアクセスは、その2割以上が「関連動画」からなのです。

 「関連動画」とは、視聴した動画の下に同じテーマの動画が複数表示される仕組みのことです。グーグルが独自のアルゴリズムによって、ユーザーの嗜好(しこう)を判別し、好みに合った動画を自動的に並べてくれるのです。

 つまり、私の動画を見てくださる方の約2割は、他にも医療関連の動画を複数見ていて、関連動画の欄に表示された私の動画をクリックした、ということです。

 好みの動画を次々視聴できるこの仕組みは、ユーチューブの一つの利点ですが、大きな欠点もあります。

 それが、「サイバーカスケード」と呼ばれる現象です。

 ◆サイバーカスケードの恐ろしさ

 インターネットやSNSを使えば、同じ考えを持つ人同士が簡単につながれます。たとえ周囲の人が誰も賛同しないような、大きく偏った考えを持つ人でも、「同じ考えの人」は容易に見つけ出せてしまうのです。

 例えば、「抗がん剤はがんに効果がない」「米国では抗がん剤は使われていない」という古典的なデマがあります。

 周囲のいろいろな人と意見交換すれば、これがデマであることは、すぐに気付けるでしょう。ところが、インターネット上で、同じデマを信じる人の意見を次々見つけると、その信念をますます強化させてしまうことがあるのです。

 人は、信じたいものを信じます。自分の信じたい意見、耳に心地よい意見を探し出し、「やっぱり自分は正しかった」という経験を繰り返すうち、取り返しのつかない誤認をしてしまうのです。

 こうした現象を「サイバーカスケード」と呼ぶことがあります。「サイバー」とは、「インターネットの」とか、「コンピュータの」という意味で、「カスケード」とは「何段にも連なった滝」のことです。

 特にユーチューブでは、ひとたび偏った思想の動画を見ると、同じテーマの関連動画が次々と現れ、まさに滝を一方向に下り落ちていくように、特定の思想に染まっていく恐れがあります。

 ユーチューブによって、医療デマを信用してしまった人を見たことがありますが、もはや、頭の中を正確な情報に入れ替えるのは、非常に困難です。そのくらい、サイバーカスケードによる信念の固定は、強力なのです。

 ユーチューブに限らず、インターネットで情報収集する際は、あえて多様な考えに触れ、複数のソースから情報を集めるよう意識しなければなりません。そして、常に「自分は間違っているかもしれない」という前提を忘れてはならないと感じます。

 科学的な事実は、時に自分にとって不都合で、受け入れるのに痛みを伴います。しかし、身の安全を守るためには、常に広い視野で情報を扱う必要があるのです。

(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 2010年、京都大学医学部卒業。複数の市中病院勤務を経て現在、京都大学大学院医学研究科博士課程、消化管外科。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設2年で800万PV超を記録。全国各地でボランティア講演なども精力的に行っている。

 外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。著書に『医者が教える正しい病院のかかり方(幻冬舎)』など多数。当サイト連載『教えて!けいゆう先生』をもとに大幅加筆・再編集した新著は『患者の心得ー高齢者とその家族が病院に行く前に知っておくこと(時事通信社)』。


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