Dr.純子のメディカルサロン

お尻の温水洗浄に潜むリスク
~間違った習慣で怖いことに~ 草間香・草間かほるクリニック院長に聞く

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の再発令で、仕事がリモートになったり、外出を控えたりすることで、生活リズムの乱れが心配です。

 運動不足や不安感による自律神経のバランスの乱れから、便秘がちになるという人の悩みを聞くこともしばしばです。

草間香先生【時事通信社】

草間香先生【時事通信社】

 便秘から痔(じ)になる人もいますが、最近、便秘に関して気になる問題があるようです。女性のお尻の悩みの第一人者である草間かほるクリニック(東京都港区)の草間香院長にお話を伺いました。

 ◆温水洗浄が浣腸代わり?

 海原 新型コロナの感染拡大で、リモートワークになり、運動不足で便秘がちという悩みを聞きます。また、デスクワークで座りっ放しで、血行が悪くなり、うっ血してお尻が痛くなったり、痔になったりするという話も聞きます。

 草間 排便後、温水洗浄便座を使って温めることで、痔を患っている人は楽になったと言う人もいます。お尻を温めるということに関しては、良いと言えますが、温水洗浄便座はそもそも、痔を治療するものではありません。

 温水洗浄便座で刺激を与えて排便をするというのも問題です。温水で肛門を洗浄し、直腸に刺激を与えて排便を促したりする人がいるんです。

 つまり、温水シャワーの水の勢いや刺激を浣腸代わりに使用して、便秘を解消したりするのですが、これは、依存の危険があります。

 刺激性の下剤は依存性があるため、だんだん薬の量を増やしていかなければならなくなってしまいます。それと同じように、温水洗浄便座に依存してしまうと、温水洗浄便座がないと排便ができない、便が出せない、となってしまいます。

 海原 それは問題。温水便座は便秘を解消するものではないし、便秘を改善するなら、食事運動、生活リズムの調整が大事ですね。

 草間 そうです。そうした基本的な生活習慣の改善が大切です。

 温水洗浄に慣れてしまい、だんだん使い方に問題が出てきてしまう人もいます。

 水圧を上げないとすっきりしないと感じたり、水圧を上げることで、さらに清潔になると思ってしまい、だんだん強い水圧になったり。

 温水の温度を高くすると、さらに殺菌効果があると思ってしまい、温度を徐々に上げてしまうことで、逆に、肛門周囲の皮膚の病気を引き起こしてしまうことがあるのです。

写真はイメージです[パナソニック提供]【時事通信社】

写真はイメージです[パナソニック提供]【時事通信社】


 海原 具体的にどんなリスクでしょうか。

 草間 肛門周囲のかゆみ、肛門周囲の湿疹や皮膚炎、肛門周囲部の感染症などを引き起こしてくる患者さんが増加しています。これは「温水洗浄便座症候群」と、肛門を診ている専門医の中で言われています。

 女性の場合であれば、外陰部のかゆみや皮膚炎、外陰部カンジタ症や膣炎(ちつえん)など、さまざまな感染症になる危険性もあるといわれています。

 肛門周囲や外陰部などの洗い過ぎによって発生する病気が多いです。あるいは、肛門の場合、肛門周囲を洗い流し過ぎて、皮脂が取れてしまい、乾燥してしまうこともあります。

 海原 温水洗浄便座は、冷えを防止し、肛門周囲の清潔を保つには有効ですが、上手に使うことが大事ですね。有効に使うポイントを教えてください。

 ◆肛門周りは顔と同じソフトさで

 草間 いつも皆さんに説明するとき、肛門の周りはとてもデリケートなので、優しく洗いましょうと話しています。それでも、皆さんのイメージが湧かないときは「肛門にしていることを顔にして、顔が痛くなったり、ただれなかったりしたら、その洗い方は大丈夫です。お尻の周りは、顔と同じだけデリケートですよ」と話しています。

 海原 温水の温度やシャワーの水圧は、顔を洗うときと同じソフトさで、ということですね。

 草間 次のような使い方をしている人は要注意です。

 (1)強い水圧(水流)で洗浄している

 (2)長時間(10秒以上)かけて洗浄している

 (3)温度を上げて洗浄している

 (4)水圧(水流)の刺激を利用して排便をしている

 (5)排便以外でも頻繁に洗浄している

 温水はぬるま湯で、水圧は一番弱くして、洗浄時間は約5秒くらいがいいです。また、肛門周囲にかゆみやただれの症状があるときは、肛門科を受診してください。

 草間 香(くさま・かほる) 2007年、草間かほるクリニックを開設。日本外科学会外科専門医、日本大腸肛門病学会専門医、金沢医科大学特定教授。痔の悩みが解決する本などを執筆。

 草間かほるクリニックのホームページ

【関連記事】


メディカルサロン