Dr.純子のメディカルサロン

思い付き上司に振り回されない方法
~ストレスは仕事の要求度と自由度で決まる~ 【男性のストレス・女性のストレス】その2

 上司の思い付きでいきなり仕事の手順が変わったり、新しい業務が突然増えたりして戸惑い疲れることはないでしょうか。これは大きなストレス要因です。どうやってこの上司の態度に対応するか、対策を考えないと疲れ切ってしまいます。

仕事始めに参拝する会社員ら(2021年1月4日、神田明神で。本文内容と直接の関係はありません)

仕事始めに参拝する会社員ら(2021年1月4日、神田明神で。本文内容と直接の関係はありません)

 ◇上司の思い付きで振り回される部下

 ケース:営業のAさんは30代。50代の部長の仕事の進め方で、苦労しているといいます。部長は時々、とてもいいアイデアを出して成功するので、上層部からも信頼されている自信家です。企画を思い付いたら、いきなり資料作りなどを言い付けてくるのでAさんはうんざりです。たまなら、嫌ではないし、むしろ面白い企画もあるので許せるのですが、金曜の夕方、もう帰宅してゆっくりしようと計画している時に突然仕事が降ってくるのです。それでも、嫌な顔などできないのだそうです。そんな対応をしたら後が怖くて、とAさんは困惑しています。仕事は嫌ではないけれど、あまりにも予定が立てられない。しかも、急に決めて動きだすから、部長のスケジュールに合わせて自分が動かないといけない。「どうすればいいのでしょうか」と悩んでいます。

 ◇カラセフモデルを知っていますか

 こういう上司、かなりいるようですね。こうした類の悩みをきくことは多いです。ポイントとしては、仕事は嫌ではない、でもその進め方がストレス、ということになります。

 ここで考えてみたいのは、スウェーデンのカロリンスカ医科大学ストレス研究所のカラセフ博士によるジョブ・コマンド―コントロールモデルです。カラセフ博士は、仕事のストレス要因と健康障害について「カラセフモデル」という有名なモデルを提唱しました。カラセフモデルは、まさに仕事の進め方と自由度についての研究なのです。このカラセフモデルでは、ストレスは仕事の要求度と自分の仕事の進め方の自由度(つまりコントロール度)により決まるとされています。仕事のコントロール度というのは簡単に言うと、その仕事の進め方や勤務体制についてどのくらい自分に決定権があるかということです。

 ◇仕事の自由度(コントロール度)ありますか

 コントロール度のない働き方というのは、例えばこんな働き方です。

 毎日決められた時間ぴったりでタイムカードを押し、上司に言われたとおりに指定された時間に合わせて仕事をして、売り上げ目標を決められ、1日の終わりに報告書を上司に書き提出する、というようなスタイルの業務のやり方です。

 これは想像しただけでも息が詰まりますね。反対に、自由度がある働き方というのは、ある期間内の売り上げ目標はあるけれど、どのように進めていくかは本人のやり方に任されているというようなスタイルです。

 カラセフは、こうした仕事のコントロール度と仕事の要求度を基に4つのタイプに仕事を分類しました。

 最もストレスが高いのは業務の要求度が高く、しかも自分でコントロールできない、というものです。例えば、消防士や電話交換などの仕事です。医師では、研修医や救急室に勤務する場合も患者さん次第で業務が変わるからストレス度は高いといえます。

 興味深いのは、業務自体の要求度が高くてもコントロール度があると忙しくても、業務が大変でも、元気でいられるということなのです。研究職や企業のCEOなどは、自分で仕事の進め方を決めて進められるのでモチベーションが保たれ負担のわりにストレスをためにくいといえます。

 つまりストレスをためないように仕事をするには いかに仕事のコントロール度を確保できるかということになります。

 対策1:一人で抱え込まない~周りと協力~

 仕事のコントロールを理解してくれそうなサポートが周囲にいないでしょうか?例えば、Aさんの場合は、部長がいきなり思い付きで仕事を振ってきても、課長も巻き込まれているわけですから、締め切りを延ばしてもらう提案をしたり、今抱えている業務があることを説明しながら、思い付きの仕事をする役割を分担する提案をするなど、協力態勢を構築することが必要です。

 産業医をしている現場で、こうした悩みをきく場合は、課長などに協力してもらえるように意見書を書くことがあります。ワンマンな部長に対して、うまく対処してくれる課長などがいるとうまくいくことがあります。理解してくれそうな味方を探して相談すること、場合によっては産業医などにも相談することをお勧めします。

 対策2:仕事のコントロール度についての話し合い

 上司は、自分のペースで仕事をしていて、部下は自分のペースに合わせるのは当然と考えていることが多いのです。上司は、今は人のペースに合わせることがほとんどなくなっていて、仕事の進め方を自分で決められる立場にいるため、部下の苦労やストレスが理解できなくなっていることがあります。仕事の進め方について「少し前から内容を伝達してほしい」といった話し合いも必要です。「仕事が嫌なのではない、ただ、進め方についてコントロール度が欲しい」ということを、カラセフモデルなどを例に出して提案できる場をつくることも大事です。

(文 海原純子)


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