聞こえても理解できない
聴覚情報処理障害(国際医療福祉大学成田保健医療学部 小渕千絵教授)
耳は聞こえているのに、日常生活のさまざまな場面で話が聞き取りにくくなる。「聴覚情報処理障害(APD)」と呼ばれる症状だ。この問題に詳しい国際医療福祉大学成田保健医療学部(千葉県成田市)の小渕千絵教授に聞いた。
▽耳の問題ではない
APDの人は、聴力検査をしても異常がなく、音は聞こえているが、聞いた言葉の処理ができない状態だ。「雑音が多い環境」「相手が早口、声が小さい、声が不明瞭」など、特定の状況下で言葉の理解が困難になる。
「手術時に医師の指示が聞き取れなくなる看護師がいました。皆がマスクをして比較的小声で話す上、緊張もしている。そのような状況だと、言葉が理解できなくなってしまうのです」。口頭で伝えたことが理解しにくい、長い話になると注意して聞き続けられないといった症状の人も。
従来は聴覚の神経の問題と考えられていたが、近年は脳の認知機能の影響とも考えられている。「話を聞いて理解するには、特定の聴覚情報に注意を向ける、聞こえにくい内容を推測するなど、複雑な認知機能が必要です。そうした機能に異常があり、言葉の理解が追いつかないと考えられます」と小渕教授は指摘する。
APDは発達障害の診断を受けている人や注意力・記憶力が通常より弱いと考えられる人に多い傾向があるという。「海外の統計では、APDは1000人に2人程度いると推計されます。少なくはないのです」
▽聞き取りやすい環境を
確立された治療法はまだないが、改善する方法はある。〔1〕話す位置や場所などを調整し、聞き取りの環境を良好にする〔2〕雑音を抑え、聞き取りやすくする補聴機器などを用いる〔3〕聴覚トレーニングを行う―などだ。子どもの場合、語彙(ごい)を増やすなど言語学習で推測力を高めることも有効という。
「本人がAPDを自覚して、周囲の理解を得ることが重要です。相手に聞き返すことを許してもらい、ゆっくり話してもらえば、きちんと理解できることが増えます。聞き返すのが嫌だからと適当に相槌を打ったりしていると、話が通じず、かえって問題を起こしかねません」と小渕教授はアドバイスする。
周囲の人も、APDの存在を理解し、ゆっくりと明瞭な声で話す、大事なことはメモに書いて渡すように心掛ければ、コミュニケーションの改善につながるので留意したい。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2021/09/29 05:00)
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