Dr.純子のメディカルサロン

深刻化するいじめ、無償で実態調査―阿部泰尚さん
~子どもに寄り添い信頼関係結ぶ~


阿部泰尚さん

 ◇「いじめGメン」の育成計画

 海原 今後「いじめGメン」の育成なども考えていらっしゃるとか。そうした今後の活動の展開についてお教えください。

 阿部 私や限られたボランティアのスタッフのみでいじめの対応をしていくのは限りがありますから、「いじめGメン」という名称で、いじめ対応の基本や関連法令、各判例などの知識を持ち、私と同様に対応できる人たちを増やしていくという活動を展開することを計画しています。

 また、いじめの被害を受けた子が不登校になるケースはかなり多く見ています。不登校になって学校で勉強をすることなく、成績が下がって進学がうまくいかないなどもありますし、自治体によっては学習支援のメニューがほとんど用意されていないということもありますので、いじめを受けた子が学びを続けられる環境を整備したいと考えています。

 そのために、活動の母体となるNPO法人ユース・ガーディアンには事務局をしっかり形成し、事務管理を含め体制の確保をしています。

 海原 それは素晴らしいですね。そうした連携を作るとさらに活動が広がりますね。行政や学校などで改善が必要と感じていることなどはどんなことですか?

 阿部 本当に基本中の基本になるのですが、「いじめ防止対策推進法」や「各対応ガイドライン」をしっかり理解して守ることから始めてもらいたいです。

 また、いじめが常態化し、ひどくなってから対応するのは大変であることから、誰も加害者にも被害者にもしないために、具体的で効果的な予防教育を積極的に実施するべきだと思います。現場では、文科省が面倒なアンケートを押し付けてきたから仕方なくやっているという学校側の意見をよく聞くことがありますが、そういう学校がやっている予防教育というのは、活発に予防教育や予防対策をやっている自治体や学校と比較すれば、ほぼやっていないと評価せざるを得ないものばかりです。

 本当に子どもたちのことを思うならばこそ、教育でできることを追究してほしいと思っています。

母親からの相談が最も多い(阿部泰尚さん提供の資料より)

 ◇回復に向けたアフターケア

 海原 いじめを受けていることは親しい人になかなか話せないということがあるように感じます。親に心配をかけたくないというような気持ちやいじめられていることが恥ずかしいと思うプライドなどもあると思いますが、阿部さんがいじめを受けた子どもと向き合う時に感じることなどお教えください。また、いじめを受けた子どもや青少年の心の傷は大きいと思いますが、いじめの後のアフターケアなども整備する必要がありますよね。この辺りのいいアイデアがあればお教えください。

 阿部 実のところ、「私は心理カウンセリングはしません」と宣言しています。私どもの団体としての役割は、「証拠を収集したり点検したりすること」やいじめ対応に関するアドバイスが主体となります。ここに、心理カウンセリングまでを加えてしまうとパンクしてしまう恐れがあるのです。

 しかし、私のやり方は、貝になってしまっている子どもの心を開き、協力関係のみならず信頼関係を結ぶことが全てにおいて必要だと考えていますので、可能な限りの時間をここに割きます。

 その子が持っている漫画を借りたり、ゲームを一緒にしたりして、一緒の時間を過ごすこともあります。一緒に過ごす時間というのはとても大切で、そうしたことから、突然いじめについてまだ話していないことを話してくれることが多くあります。また、介入が終わり、第三者委員会などでいじめが認められて、一区切りがついたように見えても、被害者が途端に回復するわけではありません。

 ですから、その後も被害者や保護者とメールやSNSを通じて連絡を取り合い、可能な限り関わるようにしています。終わりが見えない対応にはなりますが、トラウマがあって友達に声を掛けることができなかった子が大学生になって親友ができたり、外に出ることができなくってしまった子が家族旅行をしてお土産を買ってきてくれたりすると、時間と共に何かフックになる関わりが、被害回復につながったかもしれないと思い、励みになっています。

「ユース・ガーディアン」の事務局

 ◇「ピアカウンセリング」でつながる

 阿部 いじめとはいえ、被害実態は犯罪被害と変わりはないので、回復を目指していくのは大変ですし、時間もかかります。その中で、もしも勧めるとすれば、ピアカウンセリングです。私は時折、被害者家族同士をつなげます。もちろん相性もあるし、調整も必要ですが、同じような被害や悩みを持っている者同士が会い、話をすると、それだけで心が軽くなったと聞くことがあります。

 カウンセリングというと気軽に行きにくいと感じる方もいるので、人をつないだり調整したりするようなコーディネーター役が地域を越えて動けるようになるのがよいと思います。

 そして、いじめ問題は、これまでの経験から一つの方法論で全てに対応することは不可能だと思い知らされていますので、さまざまな解決案や実績がある人、団体がよりよく互いを補足し合い、協力して対応策を実施することが望ましいと思います。

 海原 家族や身近な人を心配させたくないから、と我慢してつらさを抱え込んでしまう子どもたちが多い中で、阿部さんの活動は大きな救いと言えると思います。こうした活動がさらに多くの方の協力で広がることが望まれます。教育現場で、ともすれば見て見ぬふりをする傾向が見え隠れする現状を打開する一つの大きな力になると思います。

 ◇阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんプロフィル

 T.I.U.総合探偵社代表、NPO法人ユース・ガーディアン代表理事、T.I.U.探偵養成学校校長。2004年、探偵としていじめの実態調査に当たったことをきっかけに、子どものいじめ問題に取り組む。いじめの証拠を取るために録音することを日本で初めて提言。21年末までに500件以上の実態調査を行い、1万人以上の相談を受けた。NPO法人ユース・ガーディアンを有志で立ち上げ、被害者のケアや啓発予防教育も含め、子どもが被害を受ける問題に社会貢献として取り組んでいる。著書に「保護者のためのいじめ解決の教科書」(集英社新書)、「いじめを本気でなくすには」(角川書店)など。(了)

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