女性医師のキャリア

病院では治せなかった原因不明の不調
~脳外科医が自ら探し当てた病気の正体~ 女性医師のキャリア

 病気を治す医師という立場にありながら、15年以上にわたって原因不明のせきに苦しめられてきた中牟田佳奈医師。近代西洋医学に限界を感じて、中国の伝統医学である「中医学」を学び、鍼灸(しんきゅう)師の資格を取得した。代替・伝統医療を組み合わせた「統合医療」にまで治療の幅を広げたことで、自身の症状は見事に改善したという。西洋医学では治せない病気や症状があることが明らかになってくるにつれ、代替・伝統医療が見直されつつある。病気の根本原因を探って自らの力で治すことの大切さや、統合医療の可能性について語ってもらった。

インタビューに答える中牟田佳奈医師

インタビューに答える中牟田佳奈医師

 ◇抗がん剤治療への抵抗感

 私の父は内科の勤務医でしたが、私が3歳の時に、夜だけ開業医として診療を始めました。母が経理と受付を手伝っていたので、私も母親に連れられて、診療所の待合室で患者さんに体温計を持って行ったりして手伝っていたのを覚えています。医師である父の仕事を小さい頃から見ていたので、小学校2年生の時には母親に「医者になりたい」と話していたそうです。

 最初は父親と同じ内科を考えていましたが、学生時代、遺伝学の授業で抗がん剤についての講義を受けた時に、その毒性を知ってショックを受けました。今から30年近く前は、多くの医師が今ほど抗がん剤を使いこなせていなかったこともあり、明らかに抗がん剤の使用で患者さんが弱り、そのまま亡くなっていく姿を実習で目の当たりにしたのです。抗がん剤はがん細胞を死滅させるための強い薬なので、当然ながら毒性があることは分かっていましたが、患者さんから「薬を飲むとおなかの底にあった力がなくなり、ふ抜けになっていく」と言われた時に、自分は抗がん剤を扱うのは無理だと思いました。標準治療である抗がん剤治療や放射線治療はある程度の効果があることは頭で分かっていても、それを使った治療への疑問が拭えませんでした。

 ◇最悪の状態で始まった医師生活

 何よりも興味があったのは救急医療でした。けれども5年生の病院実習で、くも膜下出血の手術を見学した時、クリッピング手術の手技にくぎ付けとなり、「やってみたい」と思ったのです。脳神経外科医の仕事のハードさや、当時この分野を選ぶ女性医師が少ないことは分かっていましたが、「一度限りの人生なのだから挑戦してみたい」と決意を固め、迷わず脳神経外科を選びました。

 ところがその後、6年生で卒業試験や国家試験の準備に臨んでいるあたりから、自分の精神状態に異変が起こり始めました。一日中、過緊張状態が続き、勉強しても本を読んでもまったく頭に入ってこないのです。考えようとしても思考が停止し、深く考えられなくなっていました。何とか試験をパスして医師免許は取得したものの、希望していた脳神経外科に入局した時は最悪のコンディションでした。自分はメンタルが強い方だと思っていたので、まさかこんなことになるとは思ってもみませんでした。

 この状況を切り抜けるためには「習うより慣れるしかない」と思い、ひたすら手技の経験を積みました。脳卒中の手術自体には興味があり、やりがいがあったのですが、手技が自分の中にすんなり入ってこないのがはっきり分かりました。「このまま脳神経外科医を続けてもいいのだろうか」と迷い葛藤しながらも、肉体的に忙しい日々の中で、答えを出せる余裕もありませんでした。

SNSで知り合った歯科医の先生と東京都内のクリニックにて

SNSで知り合った歯科医の先生と東京都内のクリニックにて

 ◇原因不明のせきに悩まされる

 医師になって5年ほどたった頃から、風邪を引くとせきが長引くようになりました。最初は1週間で治まったせきが1カ月となり、さらに2カ月に延びるなど、次第にひどくなりました。呼吸器の専門医からは「せきぜんそく」という診断を受け、ステロイドが処方されましたが、一向に良くなりませんでした。発症から10年以上過ぎた時には一晩中、せきが出るようになり、ステロイドも気管支拡張剤もまったく効かなくなりました。

 せきが止まらず一睡もできない日が続き、肉体的にも精神的にも追い詰められ、病院勤務の継続が困難な状態となったため、休職を余儀なくされました。1年間の休職で仕事のストレスから解放されたはずなのに、一向に快方に向かわず、病院で処方されるステロイドの量がどんどん増えていきました。「このままでは体がステロイド漬けになってしまうのではないか」という恐怖すら覚えました。

 ◇退職して中医学を学び、鍼灸師資格を取得

 「西洋医学では治せない」と悟り、他のアプローチとして思いついたのが中医学でした。病気の部分だけを対症的に治療する西洋医学とは違い、中医学は環境や食事、全身をみる医学です。体内のバランスを取ることで病気を治します。もちろん病原体の排除も行います。例えば、風邪を引いたときには風邪の邪気を払うツボにはりを刺し、発熱状態に加え、汗を出させて治します。膿瘍(のうよう)であれば、火に焼いたはりを刺して感染原因となる体液を排出します。高血圧は、西洋医学では薬で血圧を下げますが、中医学や伝統医療は血圧上昇の原因に合わせて体内のバランスを取ることで血圧を下げます。同じ症状でも人によって治療法が違うのです。

 中医学を系統的に学ぶため、退職して3年間鍼灸学校に通い、鍼灸師の資格を取得しました。残念ながら、私のせきははりやきゅうでもあまり改善しませんでしたが、東洋医学の奥深さを知り、治療の幅が一気に広がりました。

(左上から時計回りに)河野恵美子医師、稲垣麻里子、中牟田佳奈医師

(左上から時計回りに)河野恵美子医師、稲垣麻里子、中牟田佳奈医師

 ◇分子栄養学との出会い

 その後もホリスティック(全体的・包括的)な治療を模索する中で、統合医療を通じて「分子栄養学」を知りました。栄養士さんが学ぶ一般的な栄養学は、病気を防ぐために栄養素を十分に取る「予防」を目的としています。分子栄養学は病気の細胞が正常に機能するように、栄養素の量で体のバランスを整える、つまり生化学の知識から体を治すという西洋医学の根本的治療につながる医学です。米国のライナス・ポーリング博士が提唱した高濃度ビタミンC療法が有名です。近年、同国でも、分子栄養学は「オーソモレキュラー栄養医学」として注目され、慢性疾患や原因不明の不調を治すために取り入れている医師も増えています。

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