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介助犬が実演パフォーマンス
~車いす障害者の日常支える~

 路上や建物内で、盲導犬が活躍している光景を目にした人は多いだろう。一方、「介助犬」という名前を知っている人は少ないかもしれない。手足に障害があり、車いすの生活を送っている人には不便が多い。介助犬はそういう場面で活躍し、日常生活をサポートする。利用者が落とした物を拾う。靴や靴下を脱がす。それは利用者の「普通の生活をしたい」という希望をかなえ、心をいやす役割も果たしている。

 東京都港区で5月、日本介助犬協会が主催し、趣旨に賛同する企業が支援するイベントが開かれた。実際に活動する姿を見せ、介助犬への認知度を高めるのが目的だ。実演したのは実際に介助に当たるのではなく、広報の一翼を担う介助犬PR犬の「リンゴ」と「バディ」だ。犬種はレトリーバーで、ゴールデン・レトリーバーとラブラドール・レトリーバーのミックスだ。

冷蔵庫を開ける介助犬PR犬リンゴ

冷蔵庫を開ける介助犬PR犬リンゴ

 ◇落とした鍵、硬貨を拾う

 まず実演したのは、落とした鍵を拾って利用者の手に渡すパフォーマンス。車いすで外出し、帰宅した時に鍵を落としてしまう。しかし、自力では拾えない。同居する家族が戻って来たり、近所の人が気付いて拾ってくれたりするまで玄関の前で待つしかない。同協会常務理事の小寺真美さんは「これでは外出が怖いし、家族も安心できない。『100メートル先のコンビニに行くのが夢です』という車いすの障害者もいる」と話す。健常者にとっては普通の行為である「夢」をかなえるのに介助犬は手を貸す。

 小さな物でも拾える。10円硬貨もOKだ。スーパーやコンビニのレジでの買い物。500円硬貨や100円硬貨であれば落とした時、近くにいる人に「拾ってください」と頼むことはある。それでも気が引ける。1円硬貨を拾った人から、「何だ! 1円玉かよ」と投げ付けられた車いすの障害者もいるという。

携帯電話をくわえて届けるバディ

携帯電話をくわえて届けるバディ

 ◇冷蔵庫開け、ボトル取る

 腹筋や背筋が弱った利用者が車いすから転げ落ちることもある。さらに急に体調が悪くなることもあるだろう。この緊急事には、携帯電話ですぐに連絡を取りたい。ただ、携帯を離れた場所に置き忘れる場合もある。「テイク、携帯」という指示で、携帯電話を手元に届けてくれる。

 「冷たい物が飲みたい」という車いすの利用者のために、冷蔵庫の扉を開け、水のペットボトルを取ってから扉を閉め、持って来る。指示は「オープン、冷蔵庫」。盲導犬などへの指示は英語が原則だが、介助犬の場合は日本語も混ざる。同協会の後藤優花さんは「動詞は英語で、名詞は日本語の方が人にも犬にも分かりやすく優しい」と説明する。

靴のかかとをくわえ、脱がせるバディ

靴のかかとをくわえ、脱がせるバディ

 ◇靴と靴下を脱がせる

 利用者が車いすから落ちたり、急に体調が悪くなったりする時がある。携帯電話で家族などに知らせたいが、手元にない。そんな時に携帯電話を探して届ける。緊急時における頼もしい味方だ。

 他にも、介助犬にできることがある。利用者の片方の脚の下に体を潜り込ませて脚を組ませる。次に靴のかかとの部分をくわえて脱がす。そして、靴下をそっとくわえて脱がし、籠に入れる。

 イベントを見学した人たちからは「すごいな」「賢いよね」などと感嘆する声が上がった。

 ◇個々の利用者に合わせて

 介助犬は協会が無償で貸与する。若い時に病気や交通事故などで身体が不自由になり、障害者手帳を持っている人が対象になる。その目的は、利用者が自立し、社会参加ができるようにすることだ。
 介助犬がデビューするには時間がかかる。1歳をすぎた頃に訓練センターに入り、それぞれの犬の特長を大事にして育てる。その上で、利用する障害者との合同訓練がある。トレーナーだけではなく、医師や理学療法士、作業療法士が加わる。同協会広報セクションチーフの後藤優花さんは「マッチングが大事です。何をしたいのかは、利用者によって違います。『オーダーメード』と理解してください」と話す。

 同協会は、犬による動物介在療法(Dog Intervention=DI)にも力を入れている。大学病院やクリニックにDI犬を貸与し、専門の知識を身に付けた「ハンドラー」と共に、患者に寄り添い、治療やリハビリへの意欲を高めることに貢献している。その一つ、聖マリアンナ医科大学病院(神奈川県)では、初代の「ミカ」以来「勤務犬」として、ずっと入院患者の心の支えになっている。

 介助犬1頭を育成するためには、約250万~300万円がかかる。この費用の約9割は寄付によっている。介助犬は現在、58頭しかおらず、欧米に比べ少ない。同協会は支援を求めている。

 用語説明 介助犬は、身体障害者補助犬法に基づく補助犬の一つ。補助犬には他に、目が不自由な人の歩行をサポートする盲導犬、耳の不自由な人に玄関のチャイムの音などを教える聴導犬がいる。(鈴木豊)

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