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病気と闘う子ども癒やす
~「応援犬」が始動―成育医療研究センター~

 病気で入院生活を送ることはつらい。大人もそうだが、子どもはなおさらだ。国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)で「ファシリティドッグ」のマサが本格的に活動を開始した。ファシリティドッグは特定の施設に常勤して活動するために専門的な育成を受けた犬のことだ。「ハンドラー」と呼ぶぼれるパートナーの職員と共に、医療チームの一員として重い病気と闘う子どもたちを励ます。

 ファシリティドッグの仕事は、手術室への移動の付き添い、薬が飲めなかったり、食事が進まなかったりする子どもへの応援、採血や点滴の際の応援、ベッドでの添い寝など多岐にわたる。

 マサはオーストラリア生まれのラブラドール・レトリバーで、2歳の雄。ハンドラーの権守礼美(ごんのかみ・あやみ)さんは小児専門病院や循環器専門病院に約25年勤務してきた。

マサに触れる入院中の子ども

マサに触れる入院中の子ども

 ◇愛児を亡くしたことがきっかけ

 同センターにファシリティドッグを導入したのは、小児がんや重い病気の子どもを支援する認定NPO法人「シャイン・オン!キッズ」だ。理事長のキンバリ・フォーサイスさんの息子のタイラー君は小児白血病を患い、同センターで治療を受けた。「タイラーは2歳を目前に亡くなったが、ここの皆さんは彼のために力を尽くし、ケアをしてくれた。私と夫は何か恩返しをしたいと考え、NPO法人を立ち上げました」。2010年に静岡県立こども病院に日本初のファシリティドッグを導入したのをはじめ、神奈川県立こども医療センター、東京都立小児総合医療センターと続き、同センターが4例目となる。マサという名前は当時の主治医である熊谷昌明さんにちなむ。「新しい喜びが始まる」。フォーサイスさんは、タイラー君が治療を受けた施設でのマサの活動に大きな期待を寄せる。

ハンドラーの権守礼美さんとマサ

ハンドラーの権守礼美さんとマサ

 ◇先輩見てハンドラー志す

 ファシリティドッグの候補犬は厳しく選抜され、早ければ生後5週間から専門的なレーニングを受ける。マサも2年間の育成期間を経ている。ただ、ファシリティドッグにはパートナーが欠かせない。ハンドラーという看護師など医療従事者が研修を受け、この役を務める。マサのハンドラーである権守さんは「身の引き締まる思いです」と話す。

 神奈川県立こども医療センターに勤務していた時に日本初のファシリティドッグの「ベイリー」と先輩ハンドラーの森田優子さんの活躍を目の当たりにし、ハンドラーの道を志した。

 「マサはとても真面目で勉強熱心。優しくて落ち着きがあり、人の役に立つことが大好きです」と言う。マサと一緒の研修中に、立ったり、歩いたりすることがなかなかできない子どもの病室を訪れた。マサが入室した途端に子どもは「あー」と言って立ち上がった。それから歩行訓練も進み、担当医師らはとても喜んだ。権守さんは「そのことを忘れられません」と言う。

子どもが薬を飲むのを支援するマサ

子どもが薬を飲むのを支援するマサ

 ◇60の「技」こなす

 ファシリティドッグはハンドラーのコマンド(指示)に従い、60~100の「技」をこなす。コマンドは盲導犬などと同じで、すべて英語だ。マサもトレーニングによって約80の技ができるようになった。

 子どもたちが喜ぶのが「宝物探し」だ。マサから見えないようにして骨のおもちゃを隠す。「ファインド イット(見つけなさい)」。権守さんがコマンドを与えると、マサは骨を見つけ出してくわえ、バスケットに入れる。「ラップ(覆いかぶさりなさい)」というコマンドでは、マサは子どものももに前脚を乗せ、体重を預ける。この触れ合い」が子どもの心を癒やす。

 「ようこそ、マサ」。子どもたちの手作りのウエルカム・ボードが置かれた部屋で記者会見した同センターの賀藤均(かとう・ひとし)病院長は、「米国の小児病院には通常ファシリティドッグがいて、子どもの患者とその家族の心のケアに当たっている。私たちの施設でも、ぜひ導入したいと念願していた」と語った。

 同センターの医療型短期入所施設「もみじの家」でも、マサは子どもたちに接する。ただ、ハンドラーの人件費や感染対策費、ペット保険やフード、トレーニング用品などで年間約1000万円が必要だ。このため、同センタは寄付を募っている。(了)

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