医療ADR

【最終回】「魅力的な選択肢」になるために =弁護士会医療ADRの課題と未来

 ◇超高齢社会と医療ADR

 25年には「団塊の世代」が75歳を超えて後期高齢者になり、日本の総人口の3人に1人は65歳以上、5人に1人は75歳以上になるなど、超高齢社会はさらに加速する。

 国民皆保険が達成された1960年代初頭、65歳以上は総人口の5%台だった。患者の95%が65歳未満の若い世代が占めた「急性期医療」の時代では、「治って退院」「笑顔で退院」が多数を占めていた。しかし、高齢者が中心になる「慢性期医療」「高齢者医療」の時代では、治療の合併症が増え、治療が成功しても日常生活能力が落ちたまま退院する患者が多くなる。

 厚生労働省は25年をめどに、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的の下で、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進。国民医療費が年間40兆円を超え、公的な負担が困難になりつつあることも背景に、医療・介護の分野で大きな変革が進むと予想されている。

 医療・介護の現場では、高齢者の転倒・転落事故、誤嚥(ごえん)による窒息事故、入浴時の溺水事故などに起因する紛争が増加しているとの指摘がある。慢性的な医療職・介護職の人手不足なども手伝って、見守り・介助に関連する事故や、それに起因する紛争が今後、さらに増加するのではと懸念される。

 ◇介護分野での取り組み

 医療機関は20年間にわたり、深刻化した医事紛争の適正・迅速な解決のため、苦情相談窓口や医療事故調査、医療ADRに取り組んできた。

 これに対し、介護事業者は紛争対応に慣れているとは言い難く、介護事故に関する現場の負担が次第に大きくなりつつある。トラブル増加に対応し、適正・迅速な解決を提案できる仕組みを構築することが、喫緊の課題になりつつある。

 東京三会では介護分野についてのADRの取り組みを開始。ただ介護事業者との連携は、金融ADR、原発ADRなどと比較してもこれからだ。

 事故・事件のほか、しばしば繰り返される集団感染など、高齢者の医療・介護の現場では、社会的な注目を浴びる事案が頻発。先進的な介護福祉の経営者団体も、裁判外紛争解決制度の研究に着手し始めた。

 金融ADRや原発ADRでは、行政との連携や事業者団体と弁護士会との提携体制が構築され、早期の紛争解決に成果を上げている。介護の分野においても、同様の取り組みは不可能ではない。


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