インタビュー

子どもの意識変え、社会を変えるがん教育を =現場の言葉で伝えたい―林和彦東京女子医大がんセンター長

 6割が治る時代、無理解は大きな損失

 林教授は、内視鏡治療を含む外科手術から、抗がん剤治療、緩和ケアまで手掛けてきたがんの専門医だ。数多くの患者と向き合ってきたプロフェッショナルがなぜ、がん教育に力を入れるようになったのか。

 「国民のがんに対する理解が進んでいない。そのために国民は損をしているし、われわれも臨床の現場で心苦しい思いをたくさんしている」。林教授は「がん社会」の現状から説明を始めた。

 今や国民病になったがん。しかし、早期発見に有効ながん検診(肺がん、胃がん、乳がん、子宮頸がん、大腸がん)の受診率はまだ3040%台にとどまり、進行がんで手遅れになった段階で初めて医療機関を受診する人も多い。

 検診などで見つかった患者の5年生存率は早期発見なら肺がんを除いて9割を超え、患者全体でも6割以上に達している。にもかかわらず、いまだに「苦しみながら死んでしまう、不治の病気」というイメージも強い。がん告知の段階で「もう終わりだ」と死を覚悟し、パニックになる患者や家族もいるのが現実だ。

 林教授は「がんと診断された患者の34%が依願退職や解雇で職を失うとの調査結果もあるが、患者や雇用者側ががん治療をよく理解していたら、失わずに済む仕事も相当ある。がんを経験し、人生を見つめ直した人は、お金や地位にこだわらない純粋な生き方をして、良質な労働者になるのに、大きな損失」とも言う。

 市民の啓発活動を続けてきた林教授は、「親や祖父母ががんになったら支え、自分も将来がんになるかもしれない若い世代に啓発が届いていない」と感じていたという。試行錯誤してたどり着いたのが、学校でのがん教育だった。

 抗がん剤の副作用で髪の毛が抜けた女性患者を見た幼稚園児の孫が「おばあちゃん、気持ち悪い」と言ったのを目撃して「若いうちからがんや命の問題を考えてほしい」という思いが決定的になったと、著書などで明かす。学校で授業を受けた子どもたちが、家に帰って親を「教育」する効果も期待している。


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