インタビュー

子どもの意識変え、社会を変えるがん教育を =現場の言葉で伝えたい―林和彦東京女子医大がんセンター長


 ◇将来のために「小さなアンテナ」を

 林教授が初めて、学校でがん教育を行ってから4年がたつ。今年1月には中学・高校の保健科教員免許まで取得した。「授業の最初の方で、がん患者の6割は生き残ると話すと、子どもたちは大体、『治るんですか』とびっくりして、気持ちが楽になる」と、実践の一端を紹介する。

 今年3月に告示された中学校の次期学習指導要領には「がんについても取り扱う」と記載され、高校の指導要領にも同様に明記される見通し。林教授は最近、学校訪問や教育・医療関係者の研修に追われ、「時間があればどこへでも行くが、これ以上増えたらどうしたいいか」と心配するほどだ。

 がん教育の目標の柱は二つある。一つは、がんについて正しく理解できるようにすること。もう一つは、健康と命の大切さについて主体的に考えることができるようにしておくことだ。文部科学省がまとめた有識者による「がん教育の在り方に関する検討会」の報告書(2015年)には、この目標と教育内容例が記載されている。

 「家族を思いやる心や自主的・自発的に自分の体を守る考え方を学び、社会全体にも温かい手を差し伸べるようになってほしい」「子どもに小さなアンテナを付けるような教育だが、将来、がんに関する膨大な情報に触れたときも自分で取捨選択する手助けになる」。林教授は「意識を変える教育」の必要性を強調する。

 医師やがんの患者・経験者といった外部講師ががん教育を行う場合、講演会のような形式と教室で通常の授業のように行う形式がある。「担任の先生が司会をして、養護教諭も教室に入って、私たちを教材で使うような授業形式のがん教育が理想」と言う。

 最初は一つだったがん細胞が増え続け、1㌢程度の大きさになるまで1020年かかること。主な治療法は手術、抗がん剤治療、放射線治療の3種類あること。がん治療後の5年生存率は約60%あること―。小、中、高校という発達段階によって、話す内容を大きく変えることはないという。

 「地域の実情や学校の要請を踏まえ、道徳的なことに重点を置いて話すか、生活習慣の大切さに重点を置いて話すかは切り替える」

 がん教育は全国的に見ればまだ、どのように行っていくのか周知が始まった段階。外部講師の確保がなかなか難しいのが課題で、文科省は地域の実情も踏まえ、映像教材なども用意しているが、林教授は「どこの学校でも子どもの反応がいい。現場のリアルな言葉で語るメリットはやはり大きい」と実感している。(水口郁雄)


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