インタビュー

ギャンブル依存は病気、回復可能=目指すは治療プログラムの普及
 松下幸生・国立病院機構久里浜医療センター副院長

 ◇デメリットの自覚促す認知行動療法

 ギャンブルがなかなかやめられない。しばらくやめていても、久しぶりにやると、またはまってしまう―。そんな依存状態になるのは、脳内の「報酬系」と呼ばれる部位などの機能異常が原因だと考えられている。

  ギャンブルを始めた頃に大もうけすると、この部位が反応して神経伝達物質の一種であるドーパミン(快楽物質)が大量に放出される。だが、ギャンブルを繰り返すうちにこの部位の反応は鈍り、ドーパミンが出なくなる。そうなると、満たされなくなった快感を求め、ますますのめり込んでいくのだ。

 久里浜医療センターは2013年に病的ギャンブリングの治療研究部門を開設し、精神科医が看護師、臨床心理士、精神保健福祉士、作業療法士と連携して診療を行っている。松下副院長は「来院した人には最初、パチンコ、競馬など何をいつ頃から始め、どのくらいお金を使って、どう問題化してきたかを具体的に聞く」と言う。

 米国精神医学会によるギャンブル障害の診断基準(図参照)は「賭博を中断したり、中止したりすると落ち着かなくなるか、いらだつ」「苦痛の気分(無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、賭博をすることが多い」「他人に金を出してくれるよう頼む」といった9項目の「問題賭博行動」のうち4項目以上に該当するか、といった点が判断材料だ。

 診断に当たっては、うつ病など他の病気が併存していないかも注意する。「数は多くないが、躁状態とうつ状態を繰り返す双極性障害の人もいる。自殺する心配もあるので注意が必要」と松下副院長。他の病気で服用した薬の副作用が引き金になることもまれにあり、問診と診察、心理検査、頭部MRIや心電図を含む身体検査の結果を踏まえ、診断を確定していく。

 通院では通常、来院2回目以降に治療を始める。中心になるのは認知行動療法を用いた1回60分のプログラム(週1回で計5回)だ。一人一人が抱える問題をきちんと整理して理解し、どう適切な対応を取るか、何に注意すればいいかを患者に学んでもらう。松下副院長が望むのは、問題賭博行動があることを本人が理解し、メリットとデメリットを冷静に自覚してもらうことだ。

 「ギャンブルはデメリットの方がはるかに大きい。メリットとデメリットをフラッシュカードに書かせて、やりたくなった時に見てもらう。人によっては、家族の写真のような、本人にとってインパクトのあるものを見てもらいます」

 ギャンブル依存の悲惨さを客観的に実感してもらうため、自分以外の患者の話を聞くのも、回復を促す一助になるそうだ。借金などの生活問題については精神保健福祉士が相談に乗る。約9週間を基本とする入院治療プログラムもある。


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