医学トップの視座

地域社会のリーダーを育成
医師国試合格率は「日本一」―自治医大

 ◇100%が当然

 「臨床でも研究でも何でも好きなことを自由にさせます。研究成果を学会で発表する学生もいれば、哲学を学ぶ学生もいる。海外に行く学生も多い」。そういった学生が毎年十数人に上る。「そのような優秀な学生が必ずしも入学試験で優秀だったとは限らないのです。本当にギリギリで入った学生もいます」。伸び代のある学生を選び、教育した成果だ。

自治医大のキャンパス

 「医師国試も、例えば各県2人のところに1人落ちると、その県にとっては50%の合格率なのです。影響が非常に大きいから、われわれは100%が当然と思っています」

 自治医大に入学した学生は、各地の地域医療の担い手となる貴重な人材。「われわれは各県から預かってお返しする立場ですから自然に力が入ります。とにかく迷惑は掛けないというのが基本ですから」。学長自ら教壇に立ち、学生たちと議論も交わす。「学内で会うと、学生たちはみんなあいさつをしてくれます。学生と教員の距離が近いのです」

 ◇積極的に女性医師を支援

 自治医大の学生は卒業後、出身地で研修を受ける。自治医大で研修を受けるのは、他大学の卒業生と自治医大と付属病院がある栃木県と埼玉県出身の卒業生。研修医たちに求めるのは、専門分野を持った上での総合医。「やはり病院の勤務医になる場合、専門を持つことが不可欠。自治医大に行くと専門医になれないと思われがちですが、全くそのようなことはない」と念を押す。ゆとりある環境、豊富な症例数、熱心な指導体制に魅力を感じて研修希望者が全国から集まってくる。

 女性医師への支援に積極的に取り組んでいる。キャリア支援センターでは、出産、育児から復帰した女性医師に対して、リハビリテーション指導を行うほか、保育ルームでは夜間保育や病児保育にも対応する。2015年には「看護師特定行為研修センター」を設置、医師と看護師の仕事のはざまとなる特定行為を行う人材を毎年60人育成している。単なる女性医師支援にとどまらず、医療職全体の働き方改革に結び付く本質的な取り組みといえる。

 ◇地域社会のリーダーでもあれ

 永井学長が医師を目指したのは、「社会とかかわりを持つサイエンスに魅力を感じたから」。医学は社会の縮図であり、仕事を通じて社会全体を見られるのが面白い、と話す。一方、「日本で医療者としてフラストレーションを抱えずに生きていくためには、かなり幅広い学びが必要」だという。

自治医大のキャンパス

 思ったような医療ができない、長時間働いても給料が少ないなど不満を挙げればきりがない。「日本の医療はアメリカのような市場原理でもなく、ヨーロッパのような国家管理でもない、ある意味一つの理想を追求している。矛盾だらけの世界だが、地域に根差して患者さんのことを思えば喜びがある」。目の前の問題の背景に何があるのかを知るために、幅広い勉強が必要なのだ。

 少子高齢化が進み、東京一極集中がさらに進んでいく日本で、地域医療がしっかりしていなければ地方からの人口流出がさらに加速する。自治医大の卒業生が地域医療を担うことは地域社会を守るということでもある。永井学長が、地域医療のリーダーだけではなく、地域社会のリーダーでもあれ、というゆえんなのだ。(中山あゆみ)

【自治医科大学の沿革】
1970年 秋田大助自治大臣がへき地医療の充実を目指し「医学高等専門学校設立構想」を表明
  72年 学校法人自治医科大学開学、医学部設置
  74年 自治医科大学附属病院開院
  87年 自治医科大学看護短期大学開学
  89年 自治医科大学附属大宮医療センター開院
2002年 自治医科大学看護学部設置
  06年 とちぎ子ども医療センター開設
  07年 自治医科大学附属大宮医療センターを自治医科大学附属さいたま医療センターに名称変更

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