2024/11/06 05:00
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風邪薬は、「風邪を治す薬」ではありません。風邪は大部分がウイルス感染ですが、風邪薬にはウイルスをやっつける成分は入っていません。入っているのは、熱を下げ、鼻水やのどの痛み、せきなどの症状を抑える成分だけです。
「対症療法」は「対処療法」ではありません
このように「症状を抑える治療」のことを、医学用語で「対症(たいしょう)療法」と呼びます。その名の通り「症状に対して」行う治療です。
医師はこの「対症療法」という言葉をよく使うのですが、正確な意味は一般にあまり知られていません。それどころか、「対症療法」を「対処療法」だと誤って覚えている人もいます。
症状の原因はよく分からないが、ひとまず一時しのぎの「対処」をしておく。とりあえず、臭いものにふたをしておく。そんなふうに、ネガティブな意味で捉えている人が多いのです。
国立国語研究所の調査によれば、「対症療法」の意味を理解している人は約48%しかおらず、「対処療法」だと誤解している人は約27%もいるのだそうです。
患者さんの半数以上が理解できず、あろうことか4人に1人以上が「聞き間違える」ような言葉を、医師は何の説明もなしに患者さんに使うわけにはいきません。「対症療法」の言葉の意味や目的をいつもきちんと説明するよう心がけなければならない、と実感します。
◇さまざまな対症療法
対症療法は、医療現場でよく行われる大切な治療手段の一つです。
例えば、
強い痛みがあるときに痛み止めを使う
眠れないときに睡眠薬を使う
といった治療は、一般に「対症療法」です。痛みや吐き気、不眠の原因となる病気を治そうとするアプローチではなく、症状そのものを抑えるアプローチだということです。
症状に応じて適切な対症療法を行い、体と心を楽にすることで日常生活の質(QOL)を上げることは極めて大切です。対症療法を行うには専門知識と技術が必要で、病気の根本的な原因に対する治療と並行して、計画的に行われるべき治療だと言えます。
◇対症療法には注意点もある
もちろん、対症療法には注意点もあります。症状を抑えることで、「もともと、どの程度の症状があったか」が分かりにくくなることです。
例えば、毎日習慣的に痛み止めを飲んでいる人は、常に痛みが緩和されている状態です。つまり、「痛み止めがなかったらどのくらい痛いか」は分からないままです。
確かに、痛みを緩和することは、日常生活を送る上で非常に大切です。しかし、痛みの原因となっている病気が徐々に悪化していたり、逆に良くなっていたりしても、それを「痛みの変化」として自覚できない、というデメリットがあるのです。
特に、対症療法として市販の薬を使うときは、こうしたリスクに注意が必要です。長期間、漫然と使うのではなく、適宜、医師に相談の上で「対症療法の必要性」を判断してもらうのが望ましいでしょう。(了)
山本健人氏
◇山本 健人(やまもと・たけひと)氏
2010年、京都大学医学部卒業。複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程、消化管外科。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設2年で800万PV超を記録。全国各地でボランティア講演なども精力的に行っている。
外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。著書に『医者が教える正しい病院のかかり方(幻冬舎)』など多数。当サイト連載『教えて!けいゆう先生』をもとに大幅加筆・再編集した新著『患者の心得ー高齢者とその家族が病院に行く前に知っておくこと(時事通信社)』は2020年10月下旬発売。
(2020/12/16 05:00)
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