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白内障手術で大切な屈折精度
~希望の見え方をかなえるために~ 【第8回】
今回のテーマは白内障手術の「屈折精度」です。単焦点レンズなら手術前に決めた焦点距離でピントが合い、老視矯正レンズを選択した場合には希望通りの距離がしっかり見えなければなりません。皆さんにとっては当たり前に思えるかもしれませんが、いかに屈折精度の高い手術を行うかが残された最も大きな課題の一つです。

焦点が合うとくっきり見える(イメージ画像)
◇いかに誤差抑えるか
両レンズについて具体例を挙げてみましょう。
単焦点レンズで遠方をしっかり見たいと希望したとします。しかし、想定とのずれである「屈折誤差」が生じた場合には、遠方はよく見えるものの、室内では全体的に視界がぼやけてしまうことがあります。あるいは運転時に景色がぼやけて見にくかったり、室内でテレビの字幕が見えなかったり、逆に見えないと言われたはずの手元がくっきり見えたりするケースもあります。
前者の場合には裸眼視力は1.0以上になりますが、老眼(近くが見えにくい)が思っていたよりも強く残っています。後者では裸眼視力がおよそ0.6程度になってしまい、遠方が見えにくく、2メートル以内しかピントが合わない状態になります。
一方、遠方から40センチまでの広い範囲で焦点が合うはずの老視矯正レンズを選択しても、屈折誤差が生じると、遠方は見えても70センチから手前は見えにくかったり、30センチでもピントは合うのに2メートルより遠くはぼやけた見え方になったりします。
想定通りの見え方を実現できるかどうかは、いかに屈折誤差が生じない手術をするかがカギとなるのです。ほぼ狙った通りの焦点距離になった方(屈折精度が高かった方)の割合を過去の報告から見てみると、施設による差が大きいことが分かります。低い所では60~70%、高い所で80~90%です。屈折精度の低い施設で手術を行うと、10人のうち3~4人が思うような見え方にならないということです。
◇カギ握る検査と工夫
施設間の差をなくし、屈折精度をより向上させるために重要なのが手術前検査、手術中検査、そして皆さんの希望に合わせてひと工夫を加えた手術です。

屈折精度を表す二つの正規分布の例。青は赤に比べばらつきが小さく、精度が高い。高精度だと誤差の出る人が少なく、かつ大きくずれるケースもなくなる
①手術前検査
眼内レンズの種類を決めた後には、度数を決定する必要があります。度数は50段階以上、乱視矯正付きを含めると300段階以上あり、その中から希望する見え方に合ったものを選択します。
そのために必要な手術前検査の中で、角膜の形(角膜形状)と眼軸(目の長さ、すなわち角膜から網膜までの距離)の正確な測定が特に重要になります。検査には眼軸長測定装置が用いられ、近年では光学式が主流です。まれに超音波式の場合がありますが、測定誤差が極めて大きいことが分かっています。
検査の正確さを担保するためには、検査員に一定以上のスキルがあることは必須ですが、測定した結果が本当に正しいかも確認しなければなりません。
では、どうやって確認すればよいのでしょうか。一般的には検査の再現性を見ます。例えば3回連続で同様の結果が出たり、別の日に行った検査でも結果が同じだったりすれば、正確性の確認に役立つでしょう。
これらの測定で得られたデータを計算式に入力すると、眼内レンズの度数が算出できます。この数式は眼内レンズが登場して以降、進化を続けています。現在では人工知能(AI)を駆使したものなども登場し、より正確な手術が可能になってくると予想されます。ただ、計算式がどれほど優れていても、手術前検査の精度が高くなければ屈折精度の向上は限定的になると考えます。
②手術中検査
手術中検査は波面収差解析装置を使って行います。この装置は手術前検査の結果を基本情報として入力します。正確な手術前検査データを基に測定することで結果のばらつきを抑え、精度を高められます。手術後に乱視がどの程度出るかを予測し、矯正も可能です。残念ながら非常に高価であるのに加え、検査は基本的に無料なので、導入している医療機関は多くありません。
学会などで「手術中検査は手術前検査と比較して屈折精度が高いのか」との質問を受けることがありますが、手術中検査は結果のばらつきを抑えるために実施するのであって、どちらが良いかを比較するのは妥当ではありません。
私たちの施設では、角膜の計測のみに特化した装置(前眼部OCT)、2種類の眼軸長測定装置、波面収差解析装置の結果を総合的に判断して眼内レンズ度数を決定し、精度が90%以上になったことを過去に報告しました。個々の検査結果だけを見るのではなく、手術前・手術中検査を正確に行い、それらを総合的に判断することが重要です。正確な検査には非常に手間がかかりますが、それぞれの医療機関が屈折精度の向上に真摯(しんし)に取り組むよう期待します。
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(2025/05/27 05:00)