Dr.純子のメディカルサロン

アマゾンで遭難の子どもたちはなぜ助かったのか
~ジャングルで2000日過ごした日本人女性に聞く~

 南米アマゾンの森に墜落したコロンビアの小型飛行機から4人の子どもたちが脱出し、40日ぶりに救出されたことは世界中に驚きをもたらしました。厳しい環境の中で、なぜ彼らは生き抜くことができたのでしょう。「熱帯森林保護団体(RFJ)」を立ち上げ、アマゾンの熱帯雨林の保護に取り組み、これまで通算2000日以上にわたり先住民の人たちと生活を共にしてきた南研子さんにお話を伺いました。

(聞き手・文 海原純子)

アマゾン川

 ◇通常は3日でタイムリミット

 海原 南さんはこれまで2000日以上アマゾンで生活をなさったのですね。2000日といえば5年以上になります。子どもたちの生還の第一報を聞いた時、どんなふうに感じましたか?

  これは考えられないですね。奇跡というより奇跡以上。あり得ない感じがしました。私もアマゾンで遭難した経験がありますが、3日が限度ですね。

 海原 アマゾンで遭難したんですか。

  そうです。ボートで3キロくらい先の村に移動中だったのですが、ちょうど雨期で川が急に増水。ボートに水が入った上、燃料切れになり、沈む寸前で岸にたどり着きました。
 先住民の船頭さんが木で火をおこし、濡れた体を温めて寝ることにしました。夜は冷えるので、火をおこしたのはインディオの知恵ですね。火をたくと煙が出て、動物よけにもなるのです。5人一緒だったので、体を寄せて温め合いました。アマゾンは昼と夜の寒暖差が激しく、30度くらいあるんです。
 レーズンの袋が一つだけ残り、5人は1日5粒のレーズンで過ごしました。水は川の水を飲んでいました。完全に死ぬかと思いましたね。3日で6キロ痩せました。毎日少しずつ体重が減っていくのが分かるんです。3日目に、移動していく先の村の人が到着しないのを不審に思って探してくれ、救出されましたが、最初は全く声が出ないくらい消耗していました。
 そんなわけで3日が限度という感じがあるので、今回はちょっと信じられない気がしています。ただ、子どもだから大人と違い本能的・動物的な勘が鋭いこと、あれこれ不安にならず目の前の物事に集中したこと、やたらと歩き回って体力をすり減らすようなまねをしなかったこと、4人一緒で温め合ったことなどがよかったのかもしれません。

 海原 アマゾンは当然ながら危険な生き物が多く、それも大変ですよね。

  ヒョウはいるし、毒蛇もいます。川にはヒルも毒グモもいます。私は虫が嫌ですね。えたいの知れない虫がたくさんいて、爪の間に入り込んで卵を産んだりして。全くやりきれないです。排便をすると、アンモニアの臭いに引き寄せられて集まってきたりします。

アマゾン川流域の先住民

 海原 そんな中で40日間というのは本当に考えられないようなサバイバルです。13歳という年齢は私たちの感覚では子どもですが、アマゾン先住民ではどうなんでしょう。

  アマゾンと一口に言っても、アマゾンの熱帯雨林は九つの国にまたがっています。コロンビアはどうなっているか分かりませんが、私が支援に入っているブラジルの熱帯雨林の地域では、先住民の女性は初潮を迎えると大人になる通過儀礼として1年間、誰とも話したり交流したりせず部屋に隔離されて過ごさなければならないのです。食事も部屋の前に置かれ、家族とも会わないという試練です。
 一人で自分と向き合い、個としての自分を確立する儀式です。これを通過して初めて大人として認められます。こうした経験をするので、孤独に耐え冷静に物事に対処できるのかもしれません。いつまでも親が面倒を見るということはありません。大人という意識はいわゆる文明国より早く芽生えると思います。

 海原 子どもたちは侵略者を恐れていたようですが、内戦や略奪などの状況はどうなのですか?

  コロンビアでは、もう何十年も内戦で政府軍と反政府軍の争いが続いています。この家族もそれから逃れようとしたようです。子どもたちが助かった時、大統領が駆け付けたりしていましたが、政府軍の救出活動をアピールしたいように感じました。通常は先住民の子どもの救出のために駆け付けるというような行動はしないはずで、政府のイメージアップを図りたかったのかなというのが正直な感想です。

インディオの子どもたちと

 海原 今回の救出はいろいろと不明な点もありますね。

  シェルターを作ったといっても、草を用いたあの程度のもので助かったのは不思議ですし、はさみを持っていたのも不思議です。どこから手に入れたのでしょう。また、果物を食べたそうですが、暑いからすぐ腐るんですよね。分からないことも多いのですが、アマゾンという所はよく分からないことが時々起こります。
 私も遭難していた時、夜寝ていたら「かさっ」と音がし、目を開けると半年前に亡くなった友人がいたんです。幻覚かもしれませんが。子ども4人もアマゾンの精霊が助けたのかもしれないという気もします。そういうことは信じない人がほとんどだと思いますが、私たちの40日がアマゾンの1日みたいな時空の超越があるのかもという気もしてしまいますね。そんなことさえ感じる今回の救出でした。

 海原 南さんはまた来月7月からアマゾンに向かうと聞いています。どうぞお気を付けください。(了)

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