一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏

(第7回)「論文書くな」恩師の言葉=不慮の事故、懸命看護も実らず

 秋田に着任した後、新参者の上山氏に伊藤氏はどんどん手術を任せた。朝から晩まで一緒で全国各地での手術に出掛ける時も、常に伊藤氏は上山氏を連れて行った。

 「お風呂入るのも寝る部屋も一緒で、まさに寝食を共にしました。病気のことから何から何まであーでもないこーでもないと話し合って、伊藤先生と過ごした毎日は本当に楽しかった」

 ある日、「俺みたいに何の実績もない男をどうしてそんなに評価してくれるのか」と伊藤氏に尋ねてみた。すると「天才は天才を知る。お前には分からないだろうけど、俺には分かる。他の連中は俺の手術をしたがっているけど、お前は俺の先を行こうとしている。だからお前に任せる。お前は論文は書くな。手術のことだけに専念しろ」と答えた。

 上山氏は伊藤氏の教えを忠実に守り続けた。伊藤氏流の女性論もその一つ。

 「どんなに仕事ができても、女にちゃんと評価されない男はダメだぞ。男は理論でなんぼでもだませるけど、女は一瞬で本物か偽物か見破るから」というのだ。上山氏はその教えを具現化すべく、秋田脳研で働く新人看護師たちを飲み会やスキー、キャンプ、レジャーを通して親睦を図る会をつくった。やがてレントゲン技師など病院で働くコメディカルが次々に加わって、グループは100人を超える規模に膨れ上がった。

 「『上山軍団』は秋田脳研最大のグループになって、忘年会の催し物をするにも軍団のご都合を聞かないと成り立たない、というぐらい強大な組織になりました」

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