一流に学ぶ 難手術に挑む「匠の手」―上山博康氏

(第15回)開頭手術の剃毛やめる=患者目線、常識を疑え

 札幌禎心会病院(札幌市)で2017年4月下旬の朝、脳動脈瘤(りゅう)の手術が行われた。手術台には髪の長い女性。執刀医がていねいにくしで髪をすいている。開頭手術ともなれば「丸刈り」と思いがちだが、最近ではこの病院のように、剃毛しない施設も増えているという。

 禎心会脳疾患研究所長の上山博康氏は、大学病院に勤務していた30年ほど前の光景を振り返る。手術を翌日に控えた女性が、鏡の前で丸坊主になった自分の姿を見て泣いていたという。「患者は感染予防のため、手術前に剃毛するのが常識でしたが、(この姿を見たことをきっかけに)本当に意味があるのか調べてみることにしました」

 毛根にどれぐらい常在菌が潜んでいるのか、剃毛する人としない人各30例で比較した結果、両者に明らかな違いは認められず、むしろ剃毛した方に2例の感染例が見つかった。若手医師がこの研究結果を学会で発表すると、フロアからこんな質問を受けた。

 「先生のところは手術の患者がいくらでも来るのに、これ以上患者のご機嫌を取る必要があるんですか」

 頭を丸坊主にする患者の心理的な負担が、手術に二の足を踏む原因の一つになっているかもしれない。術後も髪が生えそろうまで恥ずかしい思いを強いられる。手術を受けるだけでも大変なのに、患者にとってさらに負担になることは、少しでも減らしてあげようと考えるのは当たり前ではないのか。上山氏はこう考え、患者の頭髪を剃毛するのをやめた。

 「髪の毛があるとその分、医師の手間は増えますが、すごくお金がかかるわけではない。髪の毛で手術の傷も隠せるでしょう。若い医師には、『常識を疑え』と言ってます」

 術後は医師の手で、患者の傷に注意しながらシャンプーをして仕上げる。髪の毛を洗わないと、かゆくなって傷を引っかいたりするためだという。汗や血液でべったりした髪よりも、サラサラの清潔な髪で麻酔から目覚めた方が気持ちいいだろう。

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