一流の流儀 「海に挑むヨットマン 」 白石康次郎 海洋冒険家

(第11回)海に魅せられて 
夢を諦めない

 白石康次郎さんが26歳で単独無寄港世界一周の最年少記録をつくった頃、記者は神奈川県に彼を訪ねたことがある。その時に「海はどんな匂いがするか、知っていますか?」と聞かれたことが印象的だった。「磯の香りって言いますけれど…」と答えると、「そう思うでしょう。でも、洋上では何の匂いもしないのですよ」。その答えがなぜかロマンチックに響いた。「その海をヨットでもう一度、世界一周するのは僕の夢なのです」と、白石さんは瞳を輝かせて話した。

レースは自然との闘い

 ◇家族が支えに

 白石さん一家は、妻の海夕希さんと娘さんの3人家族だ。一度世界一周のレースに出れば、約3カ月は家を空ける。それが命を懸けての冒険。周囲から「家族がいるのに冒険を続けるのか」という質問をしばしば受けるという。

 「家族は僕の支えです。家族がいるから、僕は安心して冒険に挑める。妻は『覚悟ができていなかったら、あなたと結婚しません』と言う。お金もない、こんな僕と結婚するのだから、本当に偉い」と、奥さんへの感謝の言葉をしばしば口にしながら、軸足がしっかりあるからこそ冒険が続けられると語った。

 白石さんにとって、海の冒険の魅力は何だろう。

 ◇海、厳しさも素晴らしさも

 「海にはあるがままの世界があります。 海の上は自然界であって、人間界ではない。自然だから、人間の都合には合わせてくれません。ヨットを走らせたいときに走らせてくれるわけでもないです」。海では、自然のリズムに合わせていかなければならない。「人間の欲」だけでは通用しない。白石さんは海という自然の怖さを知り抜いている。だが、海はいつも厳しいことばかりではない。

 時には満天の星空を海が映して、素晴らしい景色を見せてくれることもあれば、夜光虫が飛び、この世のものとは思えないほど美しいと感じることもある。水平線のかなたに日が沈む時に「グリーンフラッシュ」という光が見える時もある。「まさに、自分が宇宙の中に生きていることを実感するのです」

 白石さんの冒険の原点になっているのは、「この水平線の向こうに何があるのだろう」という好奇心と、「ヨットで世界一周ができたら、楽しいだろう」という憧れだ。単独無寄港無補給世界一周レースは、大自然の恵みを受けながら、人間が知恵と技術を融合して挑むものだ。2020年の『ヴァンデ・グローブ』に必ずもう一度出場を果たし、初完走を目指すという。

苦境でも意志を貫く白石さん

 ◇いかに純粋であるか

 「夢をかなえたいのは、ほかの誰でもなく、自分なのです。悲観的に考えれば、挑戦をやめる理由には事欠きませんが、やめません。夢を実現するために、トレーニングも居合道も、企画書を携えてのスポンサー探しも、ずっとしていきます」

 海の上では良い条件だけを積み重ねていっても、決して最良の結果が出るわけではない。

 「海から学んだことは、『いかに純粋であるか』。一人ではできない夢ですので、周りの人々に感謝しつつ支援をいただきながら、夢の実現に向けて、今、やるべきことをコツコツやっていくことしかないと思っています」(ジャーナリスト/横井弘海)

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