一流の流儀 「海に挑むヨットマン 」 白石康次郎 海洋冒険家

(第10回)新艇で優勝目指す
日本での認知度高めたい

 2020年の日本は東京オリンピック・パラリンピックに沸くだろう。白石康次郎さんにとっての20年は、「海のエベレスト」と呼ばれる単独無寄港無補給の世界最高峰レース第9回「ヴァンデ・グローブ」に再びチャレンジする大切な年になる。その時には53歳になっている。16年に同レースに出場した最年長のウィルソン選手は66歳だった。日頃、体のメンテナンスに気を配る白石さんだから、年齢はまず問題にはならない。

前回のレースでの果敢な操船

 白石さんは、新艇で優勝を狙うという大きな目標に向けて準備を始めている。第8回大会で優勝したフランス選手は、「74日3時間35分」という最高記録を打ち立てた。ヨットという競技は、艇の性能がそれぞれに異なる中で争う。門外漢には少し不思議な気もするが、ヨットマンたちは全くそんなことを意に返さない。

 確かに16年には、25億円をかけハイテク装備のヨットで参戦したチームもあった。だからといって、優勝したわけではない。だが、スピード化が進んでいるのは事実だ。

 ◇マストが折れる

 この大会では参加29艇のうち11艇がリタイアを余儀なくされた。白石さんを含め、レース中にマストを折ったヨット6艇はすべて中古だった。「スタートして1カ月後、南アフリカのケープタウン沖で突然グシャって折れたのです」。荒波を乗り越えているうちに、ヨットも表面上は見えないダメージを受ける。だからこそ、完走と優勝を狙うためには新しいヨットが必要だ。幸い、スポンサーが現れ、新艇建造のめどが立った。

マストに登る危険な作業

 レースに勝つという目的のほかに、ヨットレースをもっと日本中に知らせたいという思いも強い。

 「16年のレースは、テレビ朝日系の『ニュースステーション』で毎週紹介してもらえました。海洋レースをメディアで紹介するのは難しかったですが、SNSの発達によりYou tubeなどで自分で発信することもできるわけです。レース中は大変なのですが、ヨットをもっと知ってもらうためにも続けようと思っています」

 ◇いつか「チーム日本」で

 いつか日本で設計した日本製のヨットと日本人のチームで大きなヨットレースに出場し、優勝を狙うのがさらなる将来の夢だ。「その時に自分はもうスキッパー(艇長)でなくても、何かに貢献していたいのです。僕がヨットレースをやる目的は、世の中をもっと明るく元気にしたいからです」

 母のように慕っている冒険家植村直己さんの妻、植村公子さんが白石さんに聞いたことがある。

 「康ちゃんはなぜ冒険をやっているの? 植村にはそれしかなかったから、やっていたと思うのだけれど」

20年のレースで完走を期す白石さん

 公子さんの言葉の真意は不明だ。公子さんは夫の植村さんについて「こういう人が街で生きていくのは大変だっただろう」と話している。不器用で、照れ屋。劣等感をバネにして冒険を成功させたという植村さんと、白石さんは対極にいるように思っているのかもしれない。白石さんの冒険の原動力はとにかく好奇心だ。

 「この海の先に何があるのだろう」という純粋な気持ちは周りを引き込み、応援する人たちは白石さんと一緒に世界一周をする気持ちになる。20年11月8日、「ヴァンデ・グローブ」のスタート地点レ・サーブル・ドロンヌには、白石さんの姿が新艇と共にあるはずだ。(ジャーナリスト/横井弘海)

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