一流の流儀 「海に挑むヨットマン 」 白石康次郎 海洋冒険家

(第12回)冒険の楽しさ教える
子どもの教育にも熱心

 白石康次郎さんは、自らの冒険だけでなく、次代を担う青少年の育成にも熱心に取り組んできた。2016年の「ヴァンデ・グローブ」のレースに使用した「スピリット・オブ・ユーコーⅣ」を頑張って日本に運んだ。17年と18年の夏は同艇を日本各地の港に回航させ、「勇気の教室」という教育プログラムを開催した。現役スキッパー(艇長)の白石さんが船に子どもたちを乗せて、自身の体験を話したり、ヨットの説明をしたりするというものだ。

大洋を疾走する白石さんのヨット

大洋を疾走する白石さんのヨット

 ◇リアルな航海語る

 想像を超える大きなヨットを見て、白石さんのリアルな航海の物語を聞く。子どもたちは海やヨットだけでなく、世界や地理、歴史にも目を開く。また、子どもたちと海や森で自然を学習する体験プログラム「海洋塾」なども熱心に続けている。

 「これまでヨットで3回世界一周をし、次を目指しています。でも、選手の多くは3レースくらいで引退する人が多い。一回一回が命がけですから、そんなに負担が多いことを何回もできないのです。その後は、後進や子どもの教育にシフトしていくかもしれません」

 白石さんの話を聞いていると、「海って、人生ってこんなに楽しいよ。だから、それを一緒に体験しようよ」と、友人に語り掛けているように感じる。「僕は生まれてから好きなことしかやっていない。周囲から『そのままの生き方だね』とよく言われます」

子どもたちに体験を語る白石さん

子どもたちに体験を語る白石さん

 ◇養護施設の子どもと航海へ

 「教室」や「塾」などを通じ、白石さんはさまざまな子どもたちと出会う。特に心に掛けているのは、児童養護施設の子どもたちだ。近海の航海に連れて行ったこともある。

 「施設にいる家庭的に恵まれない子どもの中には、虐待を受けてフライパンで焼かれた経験を持つような子どももいます。そんなことをされれば、親をうらんだり、自分が愛されていないと感じて自暴自棄になり、周りに当たり散らしたりしますよね。体の傷ではなくて、心に傷を負っているのです」

 そういう子どもたちに向かって白石さんは言う。「君が自分の気持ちを抑えることができず、壁に八つ当たりすることもあるだろう。でも、壊した壁は君に何か嫌なことをしたの?していないよね?お母さんも多分一緒の気持ちだったのだよ。つらくて、でも他に当たる場所がなかったのだよ。だから、許してあげようよ」

海は美しい景色を見せてくれる

海は美しい景色を見せてくれる

 ◇困難突破する力を

 白石さん自身は、小学1年の時に母親を交通事故で亡くし、父と祖母に育てられた。父は子どものやりたいことに反対はしないが、基本的にすべてが白石さんの自己責任。「一度決めたら、自分で責任を持ちなさい」という、息子に対する姿勢がぶれない人だった。

 持ち前の明るさでどんな環境にも飛び込んでいく白石さんだが、ヨットの世界は欧米の白人社会が中心だ。アジア人の白石さんが認められるには、相当な苦労があったことだろう。

 「生い立ちの環境は選べない。でも社会に出たら、言い訳もできないのです。ならば、生い立ちを嘆くのではなく、どんな世界に行っても、困難を突破できる力を身に付けないと。そのためには、強い心を持たないといけないのです」 (完)(ジャーナリスト/横井弘海)


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