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増える女性アスリートの膝前十字靱帯損傷
リスクの男女差知り、予防を意識したトレーニングを 【オンラインセミナー応援企画】

 ◇女性に典型的な体の使い方も影響

  武冨医師らのグループは、東大スポーツ先端科学研究拠点のプロジェクトの一環として、男女のサッカーやアメリカンフットボールの選手らに協力を求めてジャンプの着地などの映像を撮り、AI(人工知能)による動作の解析を進めている。そこで見えてくるのが、けがをしやすい女性の体の使い方の特徴だ。

典型的な着地姿勢1(武冨医師提供)

典型的な着地姿勢1(武冨医師提供)

 「例えば、ジャンプの着地のとき、男性は割とO脚気味で、膝が内側に入っていない。これに対して、女性の典型的な着地動作は、膝がぐっと内側に入る傾向がある」という。

 着地の際の体幹コントロールにも男女差がある。男性が股関節を「くの字」に曲げるのに対して、女性は体をあまり曲げずに降りてくる傾向があるという。これはスクワットの動作にも共通する特徴だ。「着地で一番深くしゃがんだ所での男女差は非常に大きい。股関節が曲がっている方が、床からの衝撃を吸収しやすく、重心も膝の上に来る。膝より遠い所に重心があると、前十字靱帯損傷のリスクが高い」

典型的な着地姿勢2(武冨医師提供)

典型的な着地姿勢2(武冨医師提供)

 前十字靱帯損傷の予防のためには、こうした女性特有の体の使い方も踏まえ、正しい知識を持つアスレティックトレーナーら専門家のアドバイスを受けてトレーニングすることが望ましい。「骨格の形などは変えられないので、筋力の強化に加えて、膝が内側に入る姿勢や、股関節の使い方など動作の改善を見込めるところにアプローチする」と、武冨医師は最新のスポーツ現場の取り組みを紹介する。

 ◇「減らせるチャンスあるけが、予防が大切」

  国際サッカー連盟(FIFA)は、スポーツ外傷・障害予防のためのウオーミングアッププログラム「FIFA11+(イレブンプラス)」を公開、日本サッカー協会のウェブサイトで日本語版を見ることができる。このような予防プログラムは女性アスリートの前十字靱帯損傷の予防に有効で、そのリスクは45%低下すると、海外の多くの論文の分析に基づいて報告されている。

武冨修治医師

武冨修治医師

 武冨医師は「けがをすると、大事な試合に出られなくなったり、最悪、競技から引退せざるを得なくなったりする選手もいる。もちろん治療とリハビリで、以前と同じかそれ以上の状態で復帰できる選手もいるが、けがをしないことが何より大切。けがは減らせるチャンスがある」と訴える。

 FIFAのプログラムを10~12歳の女子サッカー選手が週2回、7~8週行ったところ、両足着地の膝外反が改善したとの報告もあるという。やはり、ジュニアの頃からけがをしにくい体をつくり、動作を習慣づけることが大切だ。

 「強くなるためのトレーニングに注目しがちだが、若いうちからけがをしにくい体をつくることに、選手も保護者も指導者も、もっと目を向け、そのための時間をつくってほしい。医療の世界でも、メタボと同様にけがも予防が大切だという意識が、もっと広まらないといけない」と武冨医師は話す。 (水口郁雄)

 ■武冨 修治氏(たけとみ・しゅうじ) 東大病院整形外科に勤務。専門はスポーツ整形外科。公認スポーツドクターで、リオデジャネイロ五輪ではサッカー男子日本代表に帯同。東大のスポーツ先端科学研究拠点プロジェクトでスポーツ障害の研究に取り組む。


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