「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~

世界的流行を次に起こしそうな感染症 (濱田篤郎・東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授)【第69回】

新型コロナの感染源と疑われ、閉鎖された中国・武漢市の市場=AFP時事(2020年1月)

新型コロナの感染源と疑われ、閉鎖された中国・武漢市の市場=AFP時事(2020年1月)

 ◇動物由来の新たなウイルス流行も

 次に考えられるのが、新型コロナと同様に、動物から未知の病原体がヒトに感染するケースです。中国の武漢で新型コロナウイルスがどのような経路でヒトに感染したかは諸説ありますが、現時点では市場で食用に販売されていた小動物から感染したという説が有力です。この経路は03年のSARS流行時も同様だったと考えられており、今後も中国などで、市場で販売されている小動物などからヒトに未知の病原体が感染し、世界流行を起こす可能性があります。

 発展途上国の市場では、食用動物の生きたままの販売が昔から行われてきましたが、私はこの動物の産地が問題ではないかと思います。最近、中国などでは土地開発が進み、奥地で捕獲した小動物を販売するケースが増えているようです。こうした小動物が未知の病原体を保有していると、市場などでヒトに感染する機会が増えてくるのです。

 今後、市場で販売されている小動物の病原体保有状況調査や、そこに出入りする人々の健康監視などが課題になってくるでしょう。

 ◇宇宙から侵入する病原体も

 もう一つ、まだ可能性は低いですが考えておかなければならないのが、宇宙から侵入する病原体です。今後、人類は月や火星など宇宙空間への進出を大きな目標にしています。こうした宇宙空間に生命体が居るかどうかが議論されていますが、ウイルスや細菌などの微生物も生命体であり、その存在の確率はかなり高いと考えられます。そして、その中にはヒトの病原体となる微生物も潜んでいるはずです。このような宇宙空間の未知の病原体が地球上でまん延した場合、私たちは免疫を持っていないために大流行することが考えられます。

 SF映画「ET」(1982年・米国)の中に、子どもたちがかくまっていた宇宙人を、大勢の兵士が捕獲するシーンが出てきます。この時に兵士たちは、宇宙人が未知の病原体に感染していることを恐れ、感染防御服を着て任務に当たっていました。実際に、宇宙から帰還した飛行士や宇宙空間から回収した物体などについても、未知の病原体の侵入を防ぐ対策が既に取られていると聞きます。

 本格的な宇宙時代を迎える中で、宇宙から侵入する病原体を想定した対策を実施することも大切だと思います。

 少々SF的な話になりましたが、2年後に国立健康危機管理研究機構が開設されるまで、まずは新型コロナの流行を、より落ち着かせることが大きな目標になるでしょう。(了)

濱田特任教授

濱田特任教授


濱田 篤郎(はまだ・あつお)氏
 東京医科大学病院渡航者医療センター特任教授。1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大学で熱帯医学教室講師を経て、2004年に海外勤務健康管理センターの所長代理。10年7月より東京医科大学病院渡航者医療センター教授。21年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。

  • 1
  • 2

【関連記事】


「医」の最前線 「新型コロナ流行」の本質~歴史地理の視点で読み解く~